将来的に、多くの方が経験することになるのが『相続』です。相続は、亡くなった方の財産を引き継ぐための手続きとなるのですが、財産にはさまざまな種類が存在しており、中には、相続手続と言っても何をすれば良いのか全く分からない…と言うケースも多いです。そして、相続時に困ってしまう最たる例が『不動産の相続』だと言われています。
不動産の相続には、親が住んでいた実家を相続するケースや、賃貸経営を行っている場合、賃貸物件を相続するなどいくつかのケースが考えられます。そして、どのようなケースでも「何から始めたらいいの?」「手続きは誰に相談すれば良いの?」と言ったことを不安に感じてしまう方が多いです。不動産の相続は、人生においてそう何度も経験するような事ではありませんし、ほとんどの方がその手順すら分からない…と言うのがある意味普通だと言える行為なのです。
そこでこの記事では、将来的に不動産の相続が発生した時、焦ってしまわないで良いよう、皆さんがおさえておくべき基礎知識や、相続手続きを放置してしまった時に考えられるリスクなどをご紹介していきます。
不動産の相続手続きの基礎知識
不動産の所有者が死亡した時、法務局に登記されている所有者名義を相続人に変更しなければいけません。そして、この手続きのことを一般的に『相続登記』と呼びます。
相続手続きについては、法務局と呼ばれる役所で、相続人自らが行うか、司法書士などの専門家に依頼して行います。
相続登記の放置リスクについて
不動産の相続登記は、その不動産の所有権を公的に認めてもらうための行為ですので、本来はすぐにした方が良い手続きと言えます。しかし、相続登記は、現在のところ「いつまでにしなければならない!」と言った法的な定めなどがありません。そのため、不動産を相続した方の中には、相続登記を行わずに、そのまま放置してしまっている方が非常に多くなっていることが問題視されるようになっています。
相続登記の放置は、さまざまなリスクが生じてしまうことになるので、令和3年(2021年)に相続登記義務化の法案が可決され、令和6年(2024年)までに施行予定となっています。これについては、以前別の記事で詳しく解説していますので、ぜひそちらをご参照ください。
それでは、不動産を相続した方が相続登記の手続きを放置した場合、どのようなリスクが生じるのでしょうか?以下で簡単にご紹介しておきます。
- リスク1 相続人が増えてしまう
相続登記の前に行う遺産分割協議では、相続人全員の参加が必要です。そして、相続登記を放置している間に時間が経過してしまうと、新たな相続人が増えていってしまい、手続きをしようにも協力してもらわなければならない人が増えすぎてしまう問題が生じるのです。相続人が多くなれば話し合いがまとまりにくくなりますし、中には連絡が取れないというケースも考えられます。 - リスク2 相続人が認知症になり遺産分割協議が困難に
手続きを放置している間に、相続人の一部が認知症になってしまい、判断能力が低下すると、有効な遺産分割協議を行えなくなるリスクが生じます。相続人の一部が認知症などで、判断能力が低下したという場合、成年後見人の選任など別の手続きが必要になります。 - リスク3 時間が経過して相続人の考えが変わってしまう
不動産を誰が相続するのかきちんと話し合い、相続人間で合意していたという場合でも、時間の経過により相続人に気持ちの変化が起きてしまう可能性があります。そのような場合、合意していたのに、いざ手続きを進めようとすると、協力してくれなくなる…なんてことも考えられます。
相続登記の放置は、上記のように手続きをより困難にしてしまうというリスクが生じますので、できるだけ早く済ませるようにしなければいけません。なお、相続した不動産を売却したり担保にしたいという場合でも、事前に相続登記をしなければいけません。
不動産の相続手続きのパターンについて
それでは次に、実際に不動産の相続手続きを行おうと思った時、おさえておきたい相続登記のパターンについて解説していきます。不動産を相続するというケースでも、いくつかのパターンが考えられ、どのパターンなのかによって手続きの流れや必要な書類が異なります。ここでは、それぞれのパターンに関する基礎をご紹介しておきます。
①遺産分割
不動産の相続手続きにおいて、最もポピュラーな方法が、この遺産分割協議による相続登記です。
要は、相続人全員で話し合い「誰がどの不動産を、どれだけの割合で継承するのか?」をきちんと決めて、それをもとに不動産の相続手続きを進めていくというパターンです。
特に遺言書などが無い場合で、法律で決まっている相続割合と異なる内容に不動産の名義変更を行うというケースでは、この方法をとることになります。
②遺言
亡くなった方が、遺言書を遺している場合、この遺言書による相続手続きを行います。
この場合は、遺言書で決められている内容通りに、不動産の名義変更を行う必要があります。注意が必要なのは、公証人役場で作成された「公正証書遺言」以外の遺言書の場合、不動産の相続手続きを進める前に、その遺言書の検証手続きを家庭裁判所で行わなければいけません。
③法定相続
最後は、法律で決められている相続割合に応じて、相続人全員の共有にして不動産の相続手続きを行うというパターンです。この方法は、「法定相続分による相続登記」などと呼ばれます。
上述したような他の手続きと比較すれば、準備しなければならない書類が少なくて済みますし、最もシンプルな相続手続きと言えるでしょう。ただ、不動産の共有を行う場合、以下のような点は注意しておきましょう。
- 一度、共有名義にしてしまうと、その後単有に変更するときは高額な税金や費用が必要
- 売却や修繕は共有者の同意が必要。意見が分かれた場合、身動きが取れなくなることもある
不動産の相続手続きの流れ
それでは、実際の相続手続きの流れについてご紹介していきましょう。基本的には司法書士などの専門家に相談するケースがほとんどですが、自分でも流れを掴んでおけば、事前に何を準備しておけば良いのかが分かりますので、手続き自体がスムーズに進むようになります。
ここでは、上述した3つのパターンの中でも、最もポピュラーな手続きとなる『遺産分割による相続登記』を想定して、その流れをご紹介しておきます。
STEP1 不動産に関わる必要な情報を集める
相続登記を行う場合、さまざまな情報が必要です。例えば、対象となる不動産の地番や家屋番号などが必要になるので、以下の書類などから必要情報を集めてください。
- ・固定資産納税通知書
- ・登記済権利証
- ・登記簿謄本
STEP2 必要書類を準備する
法務局にて名義変更手続きを行う際には、相続の発生事実や相続関係の証明が必要になります。それを証明するため、戸籍謄本等の書類を準備しておきましょう。
STEP3 遺産分割協議を行う
相続登記を行うには遺産分割協議を行わなければいけません。相続人全員で、「誰が、どの不動産を、どういう割合」で相続するのかを話し合いましょう。
STEP4 申請に必要な書類を作成する
遺産分割協議による相続登記手続きは、以下のような書類が必要になりますので、作成しましょう。
- 相続関係説明図
- 登記申請書
- 遺産分割協議書
STEP5 法務局へ登記申請する
STEP4までで用意した資料や書類について、一定の方法でまとめて、申請書類一式として法務局へ提出します。
ここまでの流れに関しては、自分たちで行うことも可能ですが、相続人全員が何の知識も持たない…と言う場合は正直難しいと思います。その場合、手数料がかかりますが、司法書士などの専門家に相談すると良いでしょう。なお、相続登記手続きに関しては、スムーズに進んだとしても1~3カ月程度の期間がかかるのが一般的です。
まとめ
今回は、不動産を相続することになった場合の手続きについて簡単にご紹介してきました。この記事でご紹介したように、相続した不動産を売却しようと考えれば、相続登記が必要になりますので、ぜひこの記事の内容は頭に入れておきましょう。
なお、相続登記を行う場合には、必要書類を収集するための費用や登録免許税などで、10~15万円程度が必要になります。登録免許税は「固定資産税評価額✕0.4%=登録免許税額」の計算式で算出することになりますので、相続する不動産の価値によって登記に必要な費用が変わります。なお、手続き自体を司法書士などに依頼する場合、その報酬として別途10万円程度の費用が掛かります。
どちらにせよ、2024年4月からは相続登記が義務化されることになっています。さらに、相続登記の義務化に関しては、過去に相続した不動産も含まれることになっていますので、「法の不遡及(ほうのふそきゅう)」があるからと安心してはいけませんよ。過去に相続して、名義変更を放置している場合、遡って罰則を受けてしまう可能性がありますので、今からでも専門家に相談してみるのがオススメです。