木造の建築物が多い日本の住宅にとって、非常の恐ろしい存在が「家を食べる虫」です。皆さんは、「木を食べる虫」「木造住宅の天敵となる虫」と聞くと、ほとんどの方はシロアリのことをイメージするのではないでしょうか?実際に、シロアリは、毎年多くの住宅で被害が報告されており、建築基準法でも新築住宅に対しては、防蟻処理を施すことを義務化するほどの問題となっています。

ただ、「木を食べる虫」については、何もシロアリだけが危険なのではなく、他にも家や家具をダメにしてしまう昆虫がいるのです。それが「キクイムシ」と呼ばれる虫で、フローリングや木の家具などに小さな穴が開いている…、家の中で木くずが散らばっているのを見かける…なんてケースでは、既にキクイムシによる被害が発生している可能性があるのです。キクイムシは、木材の内部で活動する虫なので、住人さんがその存在になかなか気付くことができず、発見した時には既に深刻な被害に発展してしまっている…なんてことが多いです。

木造建築が大半を占める日本の住宅にとっては、シロアリと並んで非常に恐ろしい存在となるのがキクイムシです。そして、キクイムシの対処は、早期発見が非常に重要で、被害の初期段階で適切な対処を施すことが非常に重要になります。そこでこの記事では、家の食害の原因となるキクイムシについて、その生態や適切な駆除方法、被害を防止するための対策などについて解説します。

キクイムシとは?基本的な生態や特徴をご紹介

それではまず、キクイムシがどのような昆虫なのかについて、基本的な生態や特徴をご紹介します。まず、「キクイムシ(木食い虫)」という名称についてですが、これは「木材を好んで食べる昆虫」であることからこの名称がつけられています。ただ、日本国内でキクイムシと呼ぶ場合、家屋への被害や森林害虫の原因となっているヒラタキクイムシを指しているケースがほとんどです。実は、日本国内には、300種類以上のキクイムシが生息していると言われていて、その全てが家屋の食害を引き起こしているわけではないのです。

現在、日本国内で家屋などの食害を引き起こしているキクイムシ類は、ヒラタキクイムシ、ナラヒラタキクイムシ、ケヤキキクイムシ、アフリカヒラタキクイムシの4種類と言われています。その中でも、最も一般的なキクイムシが、ヒラタキクイムシです。

そこでこの記事では、キクイムシの中でも特に注意しなければならないヒラタキクイムシに焦点を当てて解説します。なお、記事内では、キクイムシの駆除方法なども解説しますが、ヒラタキクイムシとは駆除の方法が微妙に異なる種類のキクイムシもいるので、その辺りはあらかじめご了承ください。

キクイムシの生態

ヒラタキクイムシの特徴や生態は以下でご紹介します。

  • 身体的特徴:体長が3~8mm程度で、茶褐色の細長い体形をしています
  • 主な生息場所:屋外は庭木などに生息し、屋内では木製家具や壁、フローリングや柱の中に生息します
  • 活動の時期:成虫は4~8月に出現し、特に5~6月が最も活動的になります。メスは4~10月の間に産卵します
  • 食害について:幼虫の期間が約10ヶ月あり、この間に木材の食害が進みます。成虫の寿命は3~5週間程度とされます
  • 好む木材:でんぷん質など養分の多い木材を好み、ラワン材、ナラ、ケヤキなどの広葉樹や竹などを特に好みます

上記のような特徴が当てはまる虫を見かけた時には、ほぼ間違いなく家の食害を引き起こすヒラタキクイムシと考えられます。

キクイムシは、メス成虫が好みの木材に産卵管を差込み、水分通導の役割を担っている道管(導管)部分に卵を産みつけます。そして、約10日ほどで孵化し、幼虫の間に木材を食べ進めながら成長するという特徴を持っています。キクイムシの幼虫の期間は、約10カ月とされていて、その間は木材の内部を食べ進められてしまうため、気付いたときには内部がボロボロになっている…なってケースが多いです。キクイムシは、成虫になると木材に穴をあけて外に出てくるため、住人さんはこの時期に被害に気付くわけです。ただ、成虫として表に出てきたということは、既に木材は食べられた後です。

ちなみに、キクイムシは、成虫になってからの寿命が3~5週間程度と、そこまで長生きするわけではありません。また、人間に対して、吸血などの直接的な被害を与える生態でもありませんし、「すぐ死ぬなら放置していても問題ないのかな。」と考える方が多いです。しかし、この考えは大きな間違いで、1匹でもキクイムシを見つけた場合は、家の中の木材の中に多くの幼虫が潜んでいる可能性があると考えなければいけません。言い換えると、人の目では見えない場所で、どんどん家を構成する木材が食べ進められている可能性があるということなのです。

したがって、家の中でキクイムシやその兆候を発見した時には、出来るだけ早く適切な対処が必要と考えてください。

キクイムシによる被害とは

キクイムシは、その名称通り「木を食害する」昆虫で、森林や木造住宅、家具などにさまざまな被害をおよぼします。上述したように、キクイムシによる被害は、約10か月間の幼虫の間に発生します。キクイムシのメス成虫が、壁や柱、家具など、木材の表面近くに産卵し、孵化した幼虫が乾燥した木材のデンプンを餌とするため、人が気付かない間にどんどん食害が拡大していってしまうのです。

キクイムシの被害について以下にまとめてみます。

  • 新しい家の方が食害の危険性が高い
    キクイムシは、幼虫のエサとなるでんぷん質があり、産卵に適した導管のある木材を好みます。具体的には、南方産広葉樹材のラワン、国産木材のナラ・ケヤキ・タモなどを好むとされています。これらの木材は、時間とともにデンプンが変質するため、古くなった木材は食害されにくいとされています。実際に、キクイムシによる食害の被害は、新築2年以内に発生しているケースが全体の80%を超えるとされています。
  • 人体への影響について
    先ほどご紹介したように、現在キクイムシの被害として報告されているのは木材の食害で、人を咬む・吸血するなど、人への直接的な被害報告はありません。

このように、キクイムシは、建てられたばかりの新築住宅や購入したばかりの木の家具で食害を進めます。そして、成虫として木材の中から出ていかない限り、木材内部で静かに幼虫が食害を進めるため、人がその被害に気付くことができないという点が大きな難点になっているのです。

キクイムシの存在に気付けず、食害を放置した時には、家具やフローリングが穴だらけになり、使用できなくなる可能性があります。以下で、「キクイムシがいるのか?」を疑った方が良い症状などもご紹介しますので、該当する場合はできるだけ早く、専門業者に相談し、駆除をしてもらうようにしましょう。

キクイムシが家の中にいる時の兆候について

キクイムシの特徴が理解できたところで、家の中に「キクイムシが発生しているのではないか?」と疑うべき現象についても解説します。現在では、日本全域でキクイムシが生息するようになっていますし、どのような住宅でも、キクイムシによる食害の可能性があると考えなければいけません。もともとヒラタキクイムシは、本州中部より西での被害報告が多かった害虫なのですが、現在では北海道などでも生息が確認されるようになっています。ナラヒラタキクイムシは、奈良県で発見されることが多いと思われがちですが、この種のキクイムシは、北海道を含む関東以北に生息しています。「ナラ」という名称は、奈良県ではなく、ナラ材を好んで食べることからつけられています。

それでは、キクイムシが家の中に生息している際、どのような証拠を残すのでしょうか?以下のような現象があった際には、キクイムシが生息している可能性が高いと言えます。

  • 木工などの身に覚えがないのに室内に木くずが落ちている
  • 家具やフローリングなど、木材に微細な穴が開いている
  • 夜、寝静まっている際などに、「ガリガリ」と木を削るような音が聞こえる

上記のような兆候が確認できた時には、家の中にキクイムシが生息していて、既に何らかの被害が生じている可能性が高いです。こうした兆候が見られた時には、問題を軽視せずに早めに対処することが大切です。

キクイムシの生息が疑われるのに、放置して適切な対処をしなかった場合、どんどん木材が食べられてしまい、住宅全体に深刻な影響を及ぼす恐れがあります。

キクイムシを自分で駆除する方法について

先ほどご紹介したような、家の中にキクイムシがいるのではないかという兆候があった時には、出来るだけ早く駆除しなければいけません。キクイムシの駆除については、専門業者に相談するという方法もありますが、市販の殺虫剤を用意して、自分で駆除することも可能です。実は、キクイムシは、エアゾール式(スプレータイプ)の殺虫剤を活用することで、一般の方でも駆除することができるのです。

家の中に存在する害虫の駆除では、バルサンなど、燻煙タイプの殺虫剤が効果的と考えられています。実際に、燻煙タイプの殺虫剤も、成虫のキクイムシシの駆除には効果的です。ただ、木材の内部に潜んでいるキクイムシに対しては、燻煙タイプの殺虫剤では、その効果が届かず生き残ってしまう恐れがあるとされています。エアゾール式の殺虫剤は、キクイムシの住処を特定する必要があるものの、殺虫成分を木材内部にまで届けることができ、隠れているキクイムシまでしっかりと駆除することができるのです。

したがって、自分でキクイムシの駆除をしようと考えている方の場合、燻煙タイプではなくエアゾール式の殺虫剤を使用するのがおすすめです。自分でキクイムシの駆除をする際の手順は以下でご紹介します。

キクイムシを自分で駆除する方法について

それでは、家の中でキクイムシの兆候を見つけた時、自分で駆除する時の流れについて簡単にご紹介します。キクイムシに効果のある殺虫剤は、ネット通販やドラッグストア、ホームセンターなどで手に入るので、まずは殺虫剤を用意しましょう。そして、殺虫剤が用意出来たら、以下の流れでキクイムシの駆除を進めてください。

  • STEP1 キクイムシの被害箇所などを特定し、殺虫剤を使用する場所の計画をする
  • STEP2 殺虫剤使用のための安全対策をする。マスクや手袋の着用を始め、使用する殺虫剤に記載されている使用時の注意事項の確認を行います
  • STEP3 STEP1で特定した被害箇所に向けて、殺虫剤をスプレーします。キクイムシの穴や木材の割れ目など、隙間にもきちんと殺虫剤を注入します
  • STEP4 薬剤の浸透時間を確保します。殺虫剤は、成分が木材内部にまで浸透させるため、指定された時間を待つ必要があります
  • STEP5 薬剤の浸透時間を確保したのち、駆除カ所の清掃を行いましょう。また、今後の対策として予防も併せて行っておきましょう

上記の手順で、自分でキクイムシの駆除を行うことが可能です。ただ、キクイムシの生息箇所の特定は、一般の方ではなかなか難しいのが実情です。家の中で、1箇所でもキクイムシの兆候を見つけた時には、既にさまざまな場所でキクイムシが産卵している可能性があります。そのため、「家の中に木くずが」「夜になるとガリガリ音が聞こえる」という場合で、キクイムシの生息場所を特定できない…なんてケースでは、専門業者に駆除を依頼するのがおすすめです。

自分でキクイムシの駆除を行う時の殺虫剤について

自分でキクイムシの駆除を行いたいと考えた時には、どのタイプの殺虫剤を購入すれば良いのかに迷う方が多いです。一口に殺虫剤と言っても、ゴキブリなどに効果のある物、蚊や蜂、シロアリ用の駆除剤など、さまざまな製品が販売されています。そのため、「どの殺虫剤を購入すれば良いの?」と迷ってしまう方が多いのです。

キクイムシの駆除に使用する殺虫剤については、以下のタイプを選ぶようにしましょう。

  • ピレスロイド系の成分を配合した殺虫剤
  • スプレータイプで、細長いノズルが装備されている
  • 使用時のにおいが控えめであること

キクイムシの駆除に効果的なのは、ピレスロイド系の成分が配合された殺虫剤です。ピレスロイド系の殺虫剤は、虫に対しては神経系に影響を及ぼす殺虫効果があるものの、人や犬・猫などの哺乳類に対しては害がありません。そのため、家の中で使用することを想定した場合には、このタイプの殺虫剤がおすすめです。
なお、キクイムシは、木材の内部に潜むという生態であるため、奥深くまで殺虫成分を届かせる必要があります。したがって、単なるスプレーとして利用できる製品でなく、細いノズルなどが付属されているものがおすすめです。なお、殺虫剤の中には、強烈な臭いを伴うものもあるのですが、家の中で使用する殺虫剤としては、このタイプはおすすめできません。

キクイムシ用の殺虫剤は、以下のような製品がおすすめとされています。

上記のような殺虫剤は、ホームセンターやネット通販で手に入れることができます。

キクイムシによる被害箇所が特定できない場合は専門業者に相談

キクイムシの駆除は、被害箇所の特定さえできれば、市販の殺虫剤を使用して自分で駆除することが可能です。しかし、被害箇所を特定することがなかなか難しく、一般の方ではすべてのキクイムシを一網打尽にすることが難しい場合がほとんどです。適切に駆除できなかった場合、家具や家そのものが食べられてしまうため、可能であれば専門業者に駆除を依頼すべきです。

なお、専門業者にキクイムシの駆除を依頼する場合、10㎡あたり2万円から3万円程度の費用がかかるのが一般的です。もちろん、家の中全体を調査してもらうなど、広範囲の駆除が必要な場合は、追加の費用がかかると考えてください。また、被害の深刻度によっては、必要になる薬剤の量や器具が変わるため、費用に変動が出る場合があります。

したがって、キクイムシの駆除を専門業者に依頼する場合には、事前に具体的な作業箇所と料金を提示してもらい、納得してから契約することが大切と考えてください。

キクイムシの駆除業者の選び方

キクイムシは、木材の中で成長し、成虫になるまで表に出てこないという生態から、一般の方が全てのキクイムシを一度に駆除するのは非常に難しいです。実際に、キクイムシの駆除を自分で行っても、毎年家の中でキクイムシが再発する…なんてことになるケースも珍しくなく、自分でキクイムシの駆除に挑戦しても十分でないとなることがほとんどです。

そのため、家を長く良い状態で維持していこうと考えた時には、キクイムシの駆除を専門とする業者にできるだけ早く相談するのがおすすめです。ただ、害虫駆除業界は、昨今、作業後に高額請求を受ける…と言った悪質な業者が増えていると指摘されていますので、最初の業者選びは慎重に行わなければいけません。キクイムシの駆除を、専門業者に依頼する際には、以下のポイントに注意するようにしましょう。

  • 見積りまで無償で提供してもらえるか最初に確認する。見積りの段階で「調査が必要」という理由をつけ、料金が発生する業者もありますが、初回見積りの段階で費用がかかる場合は注意が必要です。
  • 作業内容と料金の内訳が明確になっているのかを確認しましょう。見積り時に、どのような作業を行うのか、なぜその作業が必要なのか、きちんと説明してくれる業者を選ぶのがおすすめです。作業内容について質問しても、曖昧な返答しかしない、不必要な作業の提案までしてくるという業者は危険です。
  • 作業後の保証内容を確認しましょう。信頼性の高い駆除業者であれば、駆除後の保証も手厚く、事前にその内容まで説明してくれるはずです。また、害虫駆除作業に対する保証は、自信の表れでもありますので、高い技術力の証明にもなります。何の保証もしてくれない業者の場合、手抜き作業を行う可能性が残ってしまいます。

上記のようなポイントに注意しながら、作業を依頼する駆除業者を選ぶと良いでしょう。

キクイムシの駆除後は、再発防止対策も検討

キクイムシは、一度駆除すれば、その後絶対に安心できるという害虫ではありません。家の中には、キクイムシのエサとなる木材がたくさんあるわけですので、きちんと駆除をしたとしても、再発する可能性があります。

したがって、キクイムシの駆除作業を行った後は、その後、キクイムシの被害が発生しにくくなるような予防策も行っておくのがおすすめです。例えば、以下のような方法があります。

  • 木材表面への殺虫剤散布
    エアゾール式の殺虫剤は、木材表面に噴射することで、キクイムシの産卵を予防する効果があるとされています。木材表面への噴射なので、内部に生息する幼虫などには効果がありませんが、駆除後に新たに産卵されるということを予防することが可能なので、キクイムシが好む木材に散布しておきましょう。
  • 木材表面に、ニスや塗料、防腐剤を塗布
    木材表面に、ニスや塗料などを塗布することで、キクイムシが内部に侵入できないようにすることができます。家具などは、殺虫剤を噴射したくない…というケースもありますし、そういった場合はニスや塗料、防腐剤の塗布がおすすめです。

既に家の中にある木材については、上記のような対策を施すことでキクイムシを予防することが可能です。

また、キクイムシは、新しく購入する家具などにくっついて侵入してくる…なんてケースが多いため、家具の購入時などはキクイムシ予防の視点を持っておくと良いです。例えば、防虫処理がきちんとなされた製品であれば、家具の内部にキクイムシが生息している…なんて心配がなくなります。この他、キクイムシは、好む木材の種類がある程度決まっているため、そういった木材を利用しないという対策も有効でしょう。

まとめ

今回は、シロアリと並んで、家の食害を進めてしまう非常に厄介な存在であるキクイムシについて解説しました。キクイムシは、成虫になるまでに、人の目につかない位置で木材を食べ進める昆虫です。成虫になり、表に出てくれば特に害になる行動を行わないため、あまり気にしていないという方も少なくないのではないでしょうか?

しかし、キクイムシは、シロアリと並んで家そのものをダメにしてしまう可能性がある、非常の恐ろしい害虫なのです。特に、シロアリと異なる点は、比較的新しい木材を好むという点で、被害報告の多くが新築住宅に集中しているとされているのです。建てたばかりの家が、昆虫に食べられてしまうと聞くと、どれほど恐ろしい存在なのかよくわかっていただけると思います。

記事内でもご紹介したように、キクイムシは、日本全国どこにでも生息するようになっているので、いつあなたの家の中に侵入してくるか分かりません。先ほどご紹介したような、キクイムシの兆候を見つけた時には、出来るだけ早く専門業者に相談するようにしましょう。

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