「家を食べる害虫」と言われるシロアリは、新築の購入を検討している方からすると、本当に恐ろしい存在だと思います。一般的には、築年数がある程度経過した古い木造住宅に発生する害虫というイメージが強く、新築時はそこまで心配する必要はないのではないか…と考えられています。
しかし、シロアリの発生は、新築であってもその危険性がないわけではなく、建てたばかりの新しい家でシロアリ被害が生じてしまうこともあるのです。ちなみに、シロアリは、木造住宅の問題と捉えられがちですが、鉄筋コンクリート造の新しい家であっても油断は禁物とされています。
住宅にとっては、非常に悩ましい問題の一つであるシロアリの発生については、「新築時にどのような対策を施せば良いのか?」「新築でシロアリ予防をすればその後は安心なの?」と言った疑問を持つ方も少なくないと言われています。そこでこの記事では、新築時のシロアリ対策について、どのような手法が採用されるのか、またシロアリ対策の効果期間はどれぐらいなのかについて解説します。なお、家のシロアリ予防については、薬剤による健康被害問題など、おさえておきたい情報がたくさんあるため、数回に分けてシロアリ対策の解説をします。
シロアリの基礎知識について
それではまず、木造住宅の天敵と言われるシロアリの基礎知識について簡単に解説します。シロアリは「家を食べる害虫」と呼ばれますが、そもそもシロアリがなぜ「家を食べるの?」という点に疑問を感じる方は少なくないはずです。
そこ先ず、シロアリの生態や、まだ新しい家でも食べられる可能性があるのかについて解説します。
シロアリはなぜ家を食べる?
日本の住宅の多くは木造住宅です。国土交通省の資料によると、新設住宅着工の約48%が木造であり、さらに戸建てに限定すると、約85%が木造住宅となるとされています。ちなみに、ストック住宅に関しては、戸建ての約93%が木造です。
そして、このような木造住宅の天敵がシロアリで、シロアリは「家を食べる害虫」として非常に恐れられています。ただ、シロアリが食べているのは、正確には家を構成する木材です。実は、シロアリの主食が木材で、さらに詳しく言うと、木材に含まれている「セルロース」と呼ばれる物質を消化し、栄養としているのです。ちなみに、シロアリそのものはセルロースを分解することはできないそうです。実は、シロアリは腸の中にセルロースを分解できる微生物を住まわせていて、それがセルロースを分解してシロアリのエネルギーに変換しているのだそうです。
木造住宅の多い日本からすると、上記のような性質を持つシロアリは、非常に困った存在と言えます。しかし、自然のサイクルの中で見ると、シロアリは非常に重要な役割を持った生物なのです。そもそも、シロアリというのは、熱帯・亜熱帯地方の森林地帯で集中して分布する生物で、枯れて弱ってしまった木や倒木などを食べることで土に還すという働きをしているのだそうです。しかし、地球温暖化など、世界規模の環境変化や気温の変化、物流網の発展などにより、もともとの生息地帯から生息していなかった地域へと徐々に分布を広げていったとされます。
そして、私たち人間が、山を切り開き、そこに家を建てるなどの開拓をしていったことから、シロアリは山の木なのか家の木なのかが判断できないまま、エサとなる木材を食べ続けたというのが現在の状況なのです。人間にとっては、住む家の食害を引き起こす害虫であるものの、シロアリからすると、好きで人の家を食べているというわけではないのです。
データ参照:国土交通省資料より
新築でもシロアリは発生するのか?
シロアリは、木材を主食とする生き物なので、木造住宅の多い日本では、非常に悩ましい害虫という扱いとなっています。ただ、一般的には築年数が経過して古くなった家で、シロアリによる食害が発生するというイメージで、建てたばかりの新築住宅の場合は、そこまで心配する必要はないと考える方が多いと思います。しかし、シロアリが好む条件が整っている場合には、新築住宅だとは言え、シロアリによる食害の心配はないと言えないのが実情です。
基本的に、シロアリは以下のような条件を好むとされていますので、自宅がそれに該当しないのかはよく検討しましょう。
- 湿気の多い場所を宅地に転換した土地
- 周囲よりも土地が低い
- 風通しが悪い土地
- 近隣・密集地
- 基礎断熱工法が採用されている
住宅でのシロアリ被害については、築年数が経過した家ほど被害に遭う確率が高まるものの、新築で新しい家だからと言ってシロアリが発生しないわけではありません。
シロアリは上で紹介したように条件を好みますので、高温多湿な状態が保たれていて、エサとなる木材があれば、築年数に限らず寄ってくる可能性があります。例えば、もともと田んぼや湿地だった土地に家を建てたという場合や、周囲よりも土地が低く湿気が溜まりやすい場所に家を建てたという場合は、シロアリにとても居心地が良い環境になるため、まだ新しい家でも食害の危険性が高くなります。また、木造住宅にて室内の温度を一定に保つための対策である「基礎断熱工法」を採用している場合、シロアリが侵入すると基礎断熱が食害に遭う恐れがあるので注意が必要です。
一般的に、床をコンクリートで覆う「ベタ基礎」を採用した場合、湿気が溜まりにくくなるためシロアリ対策として有効とされています。ただ、基礎にわずかな隙間ができていれば、そこからシロアリが侵入することもあるので、注意が必要です。
新築住宅とシロアリ対策の関係について
それでは次に、新築住宅におけるシロアリ対策の取り扱いについて解説していきます。上述したように、一般的には築年数が経過した古い家にシロアリ被害が生じると考えられていますが、実は新築住宅もシロアリ被害の可能性があるのです。
そもそも、日本では新築時の防蟻処理が法律で定められているのですが、その中身についてはあまり知らないという方が多いです。そこでここでは、新築時の防蟻処理と、新築時に施すシロアリ対策の効果継続期間についてご紹介します。
新築は防蟻処理が法律で義務付けられている?
新築住宅を建てる際には、シロアリによる被害を防止するため、「防蟻措置」を施すのが一般的です。これは、日本は高温多湿な気候で木造住宅が多いことから、住宅のシロアリ被害の確率がどうしても高くなると考えられるためで、建築基準法でも「必要に応じて防蟻措置を講じなければならない」と定められています。具体的には、以下のような条文があります。
(外壁内部等の防腐措置等)
第四十九条 木造の外壁のうち、鉄網モルタル塗その他軸組が腐りやすい構造である部分の下地には、防水紙その他これに類するものを使用しなければならない。
2 構造耐力上主要な部分である柱、筋かい及び土台のうち、地面から一メートル以内の部分には、有効な防腐措置を講ずるとともに、必要に応じて、しろありその他の虫による害を防ぐための措置を講じなければならない。
引用:e-Gov|建築基準法施行令
簡単に言うと、「地面から1m以内にある建物の構造に関わる部分は、防腐防蟻処理を施さなくてはならない」と義務化されていて、「コストを下げたい」「薬剤による健康被害が心配」だからと、防蟻処理を施さないという訳にはいかないのです。
新築時の防蟻処理については、薬剤を利用する「バリア工法」が一般的です。バリア工法は、家の床下にシロアリ予防の効果を持つ薬剤を散布する土壌処理や、予め薬剤を加圧注入した木材を使用する方法、新築現場で木材に薬剤を塗布するといった方法が採用されます。
この他にも、床下に防蟻・防湿シートを設置することでシロアリの侵入を防ぐ方法や、毒エサを用いるベイト工法などがあります。防蟻処理の方法について、メーカーや工務店によって方法が異なるので、事前にどのような対策が施されるのかを確認しておくと良いでしょう。
防蟻処理の効果継続期間について
上述のように、新築時の防蟻処理は法律により義務化されています。したがって、家を建てれば、何らかの方法でシロアリ対策が施されていると考えて問題ありません。しかし、新築時に施した防蟻処理は、一生その効果が続くわけではなく、定期的にシロアリ対策をやり変えなければならないのです。防蟻処理の効果が一生続くのであれば、世の中に「シロアリ駆除剤」や「シロアリ駆除業者」が存在する必要がありませんよね。
そして、新築時に施す防蟻処理については、一般的に約5年が薬剤の効果継続期間とされています。一昔前までは、10年程度効果が継続する薬剤が使用されていたこともあるのですが、健康や安全、環境面の観点から強力な薬剤の使用が控えられるようになり、現在では5年程度のものが主流です。
防蟻処理の薬剤は、光や熱、水分などによって分解され、その効果は徐々に弱くなってしまいます。薬剤は、5年を経過した時点から分解され始めるのではなく、施工直後から少しづつ分解され始め、5年を経過したあたりで薬剤の効果が半分以下になるとされています。
シロアリの点検が「1年に1回必要」とされるのは、薬剤の効果が弱くなり続けるという特性を持っているからですね。
新築時にできるシロアリ対策について
新築住宅のシロアリ対策については、法で定められた防蟻処理以外にも、いくつかの対策が考えられます。ここでは、家をシロアリから守るため、建築時に検討したい対策をいくつかご紹介します。
特に、もともと田んぼだった場所に家を建てる、周囲よりも低地であるなど、シロアリ被害の可能性が高い場所に家を建てる際は、以下のような対策も検討すべきです。
床下の点検口を設ける
家にシロアリが発生していないか点検するためには、床下に潜って作業をしてもらう必要があります。上述したように、きちんと防蟻処理をしていた場合でも、シロアリの点検は年に1回のペースで行うのが良いとされているなど、皆さんが考えている以上に頻繁に行う必要があるのです。
したがって、家を建てる際に、床下に潜るための点検口を設けておけば、作業がスムーズにできるようになるというメリットが得られます。定期的に点検を行っておけば、シロアリによる被害を未然に防ぐことができますし、万一シロアリが発生したとしても、被害を最小限に抑えることができるようになるでしょう。床下用の点検口があれば、住人さんが自ら点検することも可能になるので、効果的なシロアリ予防ができるようになるはずです。
ちなみに、床下の点検口があれば、シロアリの点検以外にも、基礎のひび割れの確認や、床下の配管トラブル(水漏れなど)の対応などでも、スムーズに作業ができるようになります。
基礎断熱工法はおすすめできない
基礎断熱工法を採用する場合、適切な防蟻処理を行えば、シロアリ被害の可能性が少なくすることができるとされます。しかし、防蟻処理は一生その効果が続くわけではないため、絶対にシロアリを防げるといったたぐいのものではないのです。
基礎断熱工法とは、基礎コンクリートの立ち上がりと側面部分に断熱材を施工することで、家の断熱性を高める工法です。床部分の断熱性が高くなることで、外気の侵入を防ぎ、夏は涼しく冬は暖かい空間を実現できる点がメリットとされています。
しかし、基礎断熱工法に採用される断熱材は、シロアリの絶好のエサとなるため、シロアリを引き寄せてしまう恐れがあるのです。シロアリは、木材に含まれるセルロースを栄養としていますが、雑食性を持つため、木材だけでなくプラスチックなども加害します。特に、スタイロ系断熱材は、柔らかくて、適度な温度を保つことから、シロアリにとっては非常に加害しやすい材料となるとされているのです。
近年では、防蟻効果のある薬剤が施されたスタイロ系の断熱材もありますが、土壌に近い所に断熱材が設置されると、シロアリに侵入されるケースが多くなるため、危険だと言わざるを得ないでしょう。
シロアリが好む木材を使用しない
木材を餌とするシロアリですが、無差別に木材を食べているわけではありません。人間にも好き嫌いがあるように、シロアリにも好む木材の種類があるのです。一般的に、香りが良く固くて頑丈な種類の木材はシロアリの被害に遭いにくいとされているため、以下のような木材を家に使用すると良いでしょう。
- ヒバ
- ヒノキ
- チーク
- ローズウッド
- イヌマキ etc
逆に以下のような柔らかくて湿気を含む木材はシロアリが好んで食べるので危険です。
- エゾマツ
- スプルース
- ホワイトウッド etc
なお、シロアリ被害が少ないとされる木材を使用すれば、「絶対にシロアリが寄ってこない」というわけではありません。一般的に、同じ種類の木材でも、水分の含有量が少ない「芯材」と呼ばれる中心部は、外側の「辺材」よりも、シロアリに強いとされています。しかし、シロアリの習性を利用して「ヒノキの芯材」を使用していた場合でも、シロアリの被害に遭った…という事例は存在しています。
日常生活の中で出来るシロアリ対策について
それでは最後に、普段の生活の中で心がけたい、シロアリを寄せ付けないための対策についても簡単にご紹介します。上述したように、新築住宅は、建築時に防蟻処理が施されています、その効果は永続する物ではないため、普段の生活の中でシロアリが寄ってこないようにしなければならないのです。
ここでは、誰でも簡単にできるシロアリ対策をいくつかご紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
家の周りにシロアリのエサとなるものを放置しない
一つ目の対策は、シロアリのエサとなるものを家の周りに放置しないという対策です。例えば、何も考えずに家の前にゴミを出していれば、生ごみなどの臭いにつられてカラスが寄ってきてしまいますよね。この現象と同じで、家の周辺に木材や段ボールなどを放置してしまうと、シロアリを寄せ付けてしまう原因になるのです。
特に注意したいのが段ボールです。段ボールには、木材と同じセルロースと呼ばれる繊維が含まれていて、これがシロアリの栄養となります。したがって、屋外にダンボールを放置していると、そこにシロアリが寄ってきて、家の中に侵入する恐れがあるのです。また、庭に木を植えているご家庭などは、剪定などで出た木材を庭に放置してはいけません。これもシロアリが非常に好むエサとなるので、非常に危険です。
木材ゴミや段ボールが出た際には、可能な限り素早く処分するようにしましょう。なお、捨てずにとっておきたい場合は、屋内で保管するのが望ましいのですが、そうでない場合は、風通しの良い乾燥した場所で保管してください。地面に置くと、下からの湿気で木材が湿ってしまうので、台などを用意してその上に置きましょう。
床下の通気口を塞がない
床下の湿気を逃がすための通気口は、物などを置いて塞がないようにしなければいけません。これを塞ぐと、湿気を逃がすことができなくなるため、床下の湿度が上昇し、シロアリの発生を招いてしまいます。以下のような場面をよく見かけますので皆さんも注意しましょう。
- 鉢植えやプランターを置いて通気口を塞ぐ
- 雑草を放置して通気口が塞がれる
- 通気口の前に自転車を置く
- 通気口の前に不用品を置く
上記のような状況になると、床下に湿気がこもり、シロアリにとって快適な環境が作られてしまいます。特に、通気口の前にプランターなどを置いた場合、水やりの影響でさらに湿気が高くなる可能性があるので注意が必要です。なるべく通気口の周りには何も置かないようにして、風通しを良くしましょう。
定期的な点検と防蟻処理を行う
上述したように、新築時に施される防蟻処理は、一生効果を持つわけではなく、5年ほどでその効果が薄れてしまうものです。したがって、家をシロアリ被害から守るためには、定期的に防蟻処理を施してもらう必要があるのです。
また、防蟻処理については、施工直後から薬剤が分解され始め、徐々に効果が落ちていくものです。効果の落ち方は、薬剤の種類や家の立地条件などによって変わるため、どの家でも5年間は安心とは言えないのが実情なのです。床下が、シロアリの生息環境に適した状態になっていれば、防蟻処理の効果が残っていたとしても、シロアリを引き寄せてしまう可能性があるでしょう。
したがって、まだ防蟻処理の効果が残っていると考えられる状況でも、専門業者に依頼して定期的に点検を行うのがおすすめです。一般的には、1年に1回の頻度でシロアリの点検を行うのが良いとされています。ちなみに、近年では、シロアリ予防の薬剤による健康被害を不安視する方が多いです。この辺りについての詳細はまた別の記事でご紹介しますが、安全性の高い薬剤を使用してほしい場合「(公社)日本しろあり対策協会が認定する薬剤」を使ってほしいと業者に依頼すると良いでしょう。
まとめ
今回は、新築時のシロアリ対策について、その基礎知識を解説しました。木造住宅がほとんどの日本は、それを餌とするシロアリが正に天敵と言っても良い存在で、実際にシロアリによる食害で建て替えが必要になる…なんてことは珍しくありません。一般的には、家のシロアリ被害と聞くと、築年数が経過した古い家をイメージしますが、記事内でご紹介したように、まだ新しい新築住宅でも、シロアリが発生してしまうケースがあるのです。
この記事では、新築住宅と防蟻処理の関係や、その効果などを解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。