家を建てる際には、自分たちの生活スタイルに合わせて、家族が過ごしやすいと感じる間取りにしたい、断熱性を高めて快適な住環境を作りたいなどといった点に注目する方が多いです。ただ、これから家の建築を計画している方におさえておいてほしいのは、「軒の有無」が大きなポイントになるということです。

近年では、シンプルでスタイリッシュな外観を求めて、「軒のない家」が人気を集めるようになっていますが、軒を無くすことの中長期的な影響については、十分に検討されていないのではないかと少し心配になります。軒のない家は、スッキリとしたシンプルな形状の家を実現することができるのですが、太陽光や雨が直接家に当たることになるため、家へのダメージがどうしても蓄積していってしまうのです。実際に、インターネットなどで「軒のない家」について調べてみると「10年後に後悔する…」なんてネガティブな情報を見かけることも少なくありません。

そこでこの記事では、そもそも家の軒にどのような役割があるのか、また近年「軒のない家」が増えているのはなぜなのかという点について解説します。記事内では、軒のない家のメリット・デメリットや、軒をつけない場合の注意点についても解説します。

軒の役割と軒のない家が増えている理由

近年では、屋根の軒(のき)がほとんどない家が増えていて、これらは「軒ゼロ住宅」と呼ばれる建築デザインの一つとして住宅業界で注目されるようになっています。特に、土地価格の高騰が続いている都市部などにおいて、狭小地に建てる住宅の建築デザインとして人気です。

昨今では、屋根がフラットでサイコロのようなキューブ状の住宅形状が増えていて、このタイプの家は軒の出がほとんどないという形状になっています。フラットな屋根形状を選ぶと、太陽光パネルを設置しやすく、エネルギー効率の良い家を実現できるほか、屋根の上を屋上利用することも出来るようになるため、狭小地に建てる住宅で庭を設けることができないケースでも、家族の憩いの場や安心して洗濯物を干せる場所として活用できるというメリットがあるのです。

ただ、一昔前までの日本家屋は、しっかりと軒の出が確保されていたという記憶が皆さんもあると思います。それでは、住宅の軒にはどのような役割があったのでしょうか?ここでは、軒に求められる役割と軒のない家が増えている理由を解説します。

軒の基本的な役割

軒のない家が増えている昨今では、「軒はなくても構わない存在なのだ」と認識してしまっている方も増えています。しかし、この認識は間違っていて、日本の住宅に設けられることが多かった『軒』にはさまざまな役割が期待されていたのです。ちなみに、『軒』とは、下図の赤丸部分、家の屋根が建物の外部に張り出た部分のことを指しています。

この建物の軒は、以下のような役割を持っています。

  • 建物を雨や日差しから守る
    軒の主な役割は、建物を日差しや雨から守ることです。軒がある住宅の場合、屋根に落ちた雨や雪は、軒先から滴り落ちることになるため、外壁に当たることなく地面に排出することが可能です。そのため、雨や雪などの影響から外壁を守り、建物の寿命を延ばすという効果が期待できるのです。また、夏の強い日差しなども、軒が日除けの役割を果たしてくれます。軒の出は、きちんと計算され、夏は日差しを遮り、冬は暖かい日差しを窓から取り込むことができるようになっているため、中に住む人の快適性も向上させてくれるのです。
  • 雨天時でも活動可能なスペースを確保できる
    軒がある家は、軒下の空間を雨天時でも活動可能な半屋外スペースとして活用できます。例えば、洗濯物を干す場所や、自転車を停めておく場所などとして活用可能です。このほか、日本家屋は縁側があるのですが、軒下空間は内と外をつなぐ中間領域として機能してくれるため、縁側が季節を感じながらくつろげる空間となります。
  • 建物の維持
    軒は、建物そのものの通気性を向上させるという役割も担っています。軒裏には、換気口が設けられるのですが、これにより屋根裏や壁内の空気を循環させることができるようになるため、壁内結露や湿気がこもるという問題を防止してくれます。これは、木造住宅にとって非常に重要な機能で、建物が湿気などにより腐朽するのを防ぎ、建物を長く良い状態で保つという効果が期待出来ます。

軒がしっかりと出た家は、日本家屋特有の重厚感を得られるという外観的なメリットもあるのですが、そこに暮らす人の快適性を高める、さらに建物の保護機能も持っているなど、非常に重要な役割を果たしているのです。

軒のない家が増えている理由

冒頭でもご紹介したように、近年の新築業界では、キューブ型の形状をした軒のない家が増えているように思えます。上述したように、木造建築が多い日本の住宅業界では、軒が非常に重要な役割を担っているのですが、それなのに軒のない家が増加しているのは何が理由になっているのでしょうか?

これについては、明確な答えがあるわけではないのですが、主に以下の二つの理由があるからと考えられています。

  • 土地の有効活用の面で有利だから
  • モダンでシンプルな外観デザインが流行しているから

軒のない家が増えているのは、上記の理由が考えられます。

まず、土地活用の面については、大阪市や東京23区など、都市部では土地価格の高騰などもあり、家を建てるために広い土地を確保することが難しくなっています。そのため、狭小地に3階建て住宅を建て、余裕のある居住スペースを確保するといった工夫がなされるようになっています。狭小地に住宅を建てる際には、最大限の居住スペースを確保するため、敷地をギリギリまで利用します。軒の出が大きくなれば、その分、居住スペースとして利用できる面積が減ってしまうため、軒の出が徐々に少なくなっているわけです。また、大きな軒を設ける場合、軒を支えるための柱や基礎をしっかりと作らなければいけません。軒が無ければ、建物をコンパクトに仕上げることができるため、限られた土地を最大限有効活用することができるようになるのです。

デザイン面に関しては、家を構成する建材の進化なども要因です。昨今では、屋根材として瓦ではなくスレート材や金属屋根素材が人気となっています。これは、屋根重量を軽量化したほうが建物の耐震性が向上されるという点から、軽量な屋根材が人気になっているのです。そして、それに合わせて、外壁材も屋根と同じような金属素材が登場しています。家全面に金属素材を採用した場合、シンプルでモダンな印象を与える外観になることから、若者世代から非常に高い人気を誇るようになっているのです。
キューブ状の住宅は、従来の日本家屋と比較すると、非常にスタイリッシュな見た目を実現できることから、そういった家を求める人が増え、このタイプの住宅には軒の出が無いので、軒のない家が増えていくという状況になっているのです。

軒のない家のメリット

ここまでは、従来の日本の住宅に存在した軒の役割や軒のない家が増えている要因について解説しました。

それでは、実際にマイホームの建築を考えた時、軒のない家にすることで得られるメリットとはどのようなことが考えられるのでしょうか?ここでは、軒のない家の主なメリットをご紹介します。

メリット1 シンプルでモダンなデザインの家になる

一つ目のメリットは、住宅の外観デザインです。先ほどからご紹介しているように、軒のない家は、キューブ状の形をしており、屋根から壁にストンと落ちるシンプルでモダンな外観の家に仕上がります。軒のない家を選ぶ方の多くは、このようなスタイリッシュな外観デザインの家になるという点をメリットに感じているというケースが多いです。

もちろん、外観デザインの受け取り方については、人それぞれで、軒のない家に対して「シンプル過ぎて寂しい…」と感じる方もいるようです。しかし、近隣の住宅とは異なる独特なデザインの家にしたいと考える人にとっては、おすすめかもしれません。

メリット2 居住スペースを最大化できる

二つ目のメリットは、居住スペースを最大化することができる点です。通常、住宅を建てる際には、軒の出も建築面積に含まれてしまうため、建ぺい率の制限などを受けやすくなります。軒のない家の場合は、外壁面が建築面積の境界となるため、同じ敷地面積に建てる家の場合、軒のない家の方が床面積が広く確保できるわけです。

特に、都市部の狭小地に建てる住宅の場合、軒を無くすことで、法で定められた敷地境界ギリギリまで壁面を寄せることができるようになり、居住空間を広く確保できるようになるのです。都市部で、軒のない家が増えているのは、狭い敷地を最大限活用するためという側面もあるのです。

メリット3 建築コストを抑えられる

軒のない家は、建築コストを削減できるという点も大きなメリットになります。実際に、1000万円代のローコスト住宅の場合、シンプルなキューブ状で、軒のない家がほとんどです。

軒のない家は、屋根の軒を省くことができるため、その分材料費や施工費を抑えることが可能です。また、凹凸が少ないシンプルな形状の家になるため、建築資材を効率的に無駄なく利用することができます。シンプルな形状の場合、施工も容易となり、工期を短縮することも出来るため、家を建てるための全体のコストを抑える事ができるようになるのです。

メリット4 冬場は太陽光を取り込みやすい

軒のない家は、冬場に太陽光を取り込みやすいという点もメリットといえるでしょう。軒のある家は、夏の日差しを遮り、冬場は自然光を取り込めるように計算がされているのですが、軒がない場合は、そのような計算など関係なく、家の奥の方まで十分に太陽の光を取り込むことができるようになります。

したがって、冬場に関しては、太陽光により室温が維持しやすくなり、空調効率を高めることができるかもしれません。また、照明が必要になる時間も短くなるので、光熱費の削減に役立つかもしれませんね。

軒のない家のデメリット

メリット面だけを見れば、軒のない家が良さそうと感じてしまうかもしれませんね。しかし、当然、メリットばかりがあるわけではなく、決して見落とすことができないデメリット面もあるので、以下でご紹介します。

デメリット1 夏場の強い日差しがそのまま入ってくる

冬場は、自然光を室内の奥まで取り込めるというメリットがある反面、日の光を遮りたいはずの夏場も、日差しを防ぐことができないという点が大きなデメリットです。軒のない家は、夏場の強い日差しが室内に差し込んでしまうため、エアコンをつけていても暑さを感じる、家具や床が早期に日焼けしてしまう…などといった問題が生じやすいです。

昨今では、窓の断熱性を高めて空調効率を改善するため、複層ガラスやLow-eガラスなどが採用されていますが、軒のない家の場合、直射日光は差し込むため、それでも暑さを感じてしまいやすいです。

デメリット2 外壁が劣化しやすい

先程、軒の役割は「雨や直射日光が外壁に当たらないようにして、壁を保護する」と紹介しましたね。つまり、軒のない家の場合、この保護機能も無くなってしまうのです。

軒のない家は、直射日光や雨、雪などが直接壁に当たってしまう事から、汚れがつきやすく、さらに湿気や紫外線の影響で劣化が進行しやすくなります。特に、北側の外壁などになると、外壁表面に雨水が長時間残ってしまうことで、コケが生えてしまう…なんてことも考えられます。

軒のない家は、外壁がさまざまな外的要因の影響を受けやすくなるため、メンテナンスをしっかりと行わなければいけません。

デメリット3 雨漏りリスクが高くなる

軒のない家は、外壁や防水処理などの劣化が早くなってしまうことが考えられ、それによる雨漏りの発生リスクが高くなってしまうという問題が指摘されています。実際に、住宅検査機関の報告によると、軒やケラバが少ない住宅は、雨水の侵入事例が多発しているという報告がなされています。

住宅の雨漏りに関しては、窓回りや、屋根と壁の取り合いで発生するケースが多いです。そして、軒のない家の場合、これらの部分に直接雨水が当たることとなり、軒が雨水を防いでくれる住宅と比較すると、漏水リスクがどうしても高くなってしまうのです。
また、軒のない家は、外壁や窓周辺の防水処理部分に直射日光が当たることから、それらの部分の劣化が早く進行してしまいます。そして、防水処理の劣化部分に雨水が当たることで、そこから漏水してしまう…なんてことになりやすいのです。

日本の住宅は、そのほとんどが木造となっているのですが、木材は水分が天敵となってしまいます。住宅内部に水の侵入を許すと、木材の腐食やシロアリ被害など、建物の耐久性を損なう問題に直結してしまう可能性まであるのです。軒のない住宅を建てる場合は、雨漏り被害を防ぐためにも、定期的な点検とメンテナンスがより重要になると考えましょう。

デメリット4 メンテナンスコストがかさむ

上で紹介しているように、軒のない家は、紫外線や雨など、外的要因の影響を受けやすくなります。そのため、軒で守られている住宅と比較すると、外壁表面の塗装の劣化が早くなり、雨漏りリスクが高くなってしまうのです。雨漏りを防ぐには、定期的な点検と再塗装などのメンテナンスが必要になります。一般的に、住宅の塗装のやり替えは、10年に1回という頻度が良いとされるのですが、軒のない家の場合、劣化が早い可能性があるため7~8年に1回程度の頻度が望ましいとされています。

さらに、軒のない家の場合、外壁面を伝って雨水が落ちていくことになるので、雨だれによる汚れなども目立ちやすくなりますし、コケやカビの繁殖で景観を壊してしまうことも多くなります。こういったこともあり、軒のない家の場合、家の外観を美しく保つための掃除などにも手間がかかります。

どのような住宅であっても、定期的なメンテナンスは必要になるのですが、軒のない家の場合、メンテナンス頻度が高くなりがちで、手間やコストがかかってしまいやすくなります。この点は、明確なデメリットです。

軒のない家を選んで10年後に後悔しないための対策

軒のない家は、独特な外観デザイン、居住スペースを最大化できる、家の建築コストを抑えられるなど、さまざまなメリットが存在します。しかし、その一方、雨や紫外線などの影響を受けやすく、外壁の早期劣化や雨漏りの発生など、家の寿命を縮めてしまう恐れがあるのです。

軒のない家について、10年後に後悔するなどといわれるのは、メンテナンス不足に陥ってしまうことで雨漏りしてしまう可能性があるからです。逆に考えると、この辺りの問題をきちんと解消できるような対策を施しておけば、軒のない家を選んでも後悔する結果を招かなくて済むわけです。

そこでここでは、軒のない家を選ぶ方が抑えておきたい、10年後も見据えた家づくりの工夫をご紹介します。

高性能な外壁材を選択する

先程ご紹介したように、軒のない家は、外壁が受けるダメージがどうしても大きくなってしまいます。そのため、さまざまな外的要因に耐えられるだけの耐久性を持つ高性能な外壁材を選択することが大切になるのです。

例えば、昨今の外壁材には、表面に光触媒コーティングが施された建材などがあり、これらを採用すれば、汚れを自ら洗浄するという効果が得られるため、長く美観を保ってくれるようになります。雨水による雨だれなどの汚れも付着しにくくなり、メンテナンス頻度を抑えることで家の維持コストも削減できるようになるでしょう。このほか、断熱性能が優れた製品や、耐候性や耐衝撃性に優れた製品などもあるため、地域特性に合わせて高性能な建材を選ぶようにしましょう。

なお、外壁表面に施す塗装についても、高性能な塗料を採用するとメンテナンス頻度を抑えることができます。高性能な外壁材は、初期コストは高くなるものの、メンテナンスの頻度が少なくなるため、中長期的に考えると、経済的にも有利になる可能性があります。

庇(ひさし)を設置する

軒のない家の場合、夏場の強い日差しを遮ることができません。軒は、雨や日差しから建物を守るという役割があるわけですし、これを無くすと住宅の保護機能が低下するのは致し方ないことでしょう。

そこで、10年後の家の状態を見据えた時、有効な対策になるとされるのが庇の設置です。庇は、窓や玄関などの上部に取り付けられている突き出した構造物のことです。庇は、窓部分への雨や直射日光を遮る効果を持っているため、大きな窓の上に設置するなど、適切な場所に庇を取り付けることがおすすめです。これにより、夏場の強い日差しを防げるようになれば、室内温度の上昇を防ぎ、空調効率を高めることで省エネも実現可能です。

定期的な点検・メンテナンスを心がける

これは、軒のない家に限った話ではないのですが、軒を設置しない場合は外壁への影響が大きくなるため、特にメンテナンスが重要となります。

先程ご紹介したように、一般的な住宅では、10年に1度の頻度で外壁塗装などの大規模メンテナンスが行われます。ただ、軒のない家の場合、雨や雪、紫外線などの影響を受けてしまうため、より頻繁な点検が必要になるのです。外壁の劣化状況を始めとして、防水処理(シーリング)や塗装の状態を見ながら、適切なタイミングで適切なメンテナンスを入れられる体制を構築する必要があります。

軒のない家は、どうしても汚れや劣化などの問題が生じやすいので、可能であれば3年程度に1度の頻度で専門家による点検を受けるのがおすすめです。

まとめ

今回は、昨今の新築業界で人気の「軒のない家」について解説しました。軒のない家は、シンプルでモダンな外観であ員を実現できるほか、狭小地に建てる住宅の場合は居住スペースを最大化できるなど、土地の有効活用の面でも一役買ってくれるのです。

ただ、従来の日本建築には、必ず軒の出が設けられているように、軒には非常に大きな役割が期待されている部位となるのです。軒があることで、直射日光や雨水が外壁に当たりにくくなり、外的要因による劣化を抑えてくれています。また、軒下を半屋外スペースとして活用することができるようになるなど、無くしてみると「いろんなことに役立っていたんだ!」と驚いてしまう人も少なくないのです。

これから家を建てようと考えている方は、住宅の外観デザインのことだけを重視するのではなく、「家を長持ちさせるにはどうするのが一番良いのか?」という視点で物事を考えてみることもおすすめします。もちろん、居住スペースを確保するには軒ゼロ物件にするほかない…というケースも考えられますが、その場合でも、「どんなメンテナンスを想定すべきか?」を家の建築時点で検討できるのは非常に大きなメリットになると思いますよ!

悠建設広報のM

悠建設のサイトでは当社の有資格者の監修のもと皆様の家創りにとって有益な情報を配信しております。 以下、各種許可、資格となります。

  • 一級建築士 3名
  • 二級建築士 1名
  • 二級福祉住環境コーディネーター 1名
  • 宅地建物取引士 1名
  • 二級建築施工管理技士 1名
  • 建築物石綿含有建材調査者 2名
  • 既存建物耐震診断士 2名