
住宅に関する疑問では、親が住んでいた家の相続に関して悩む方が多いと言われています。相続問題は、多くの方が関係する問題ではあるものの、その基本的な知識が分からず、何から手を付ければ良いのかが分からず、困ってしまう人が多いようです。
特に、現金や預貯金と異なり、家の相続となると、簡単に分割することも出来ませんし、既に別の場所に住まいを持っている方であれば、相続したとしても持て余してしまうのではないかと不安になってしまいますよね。実際に、昨今では親から相続した家を空き家のまま放置していることが社会問題となっており、空き家の管理に対しては厳しい目が向けられるようになっています。例えば、空き家を適切に管理せず、放置していた場合、固定資産税の特例が受けられなくなり支払わなければならない税金が高くなってしまうなどといったリスクがあるのです。
そこでこの記事では、家の相続に関する基礎知識を解説したいと思います。家の相続に関しては、その手続きの流れやかかる費用、誰に頼めば良いのかなど、さまざまな疑問が頭をよぎるはずです。ここでは、いざ家の相続が必要になった際、皆さんが困らなくても良いよう、おさえておきたいポイントをご紹介します。
一般的な家の相続の流れ
それでは、家の相続について、一般的な手続きの流れについてご紹介します。親が住んでいた家について、たとえ親が亡くなってしまったとしても、自動でその所有権が子に移動するわけではありません、
家など、不動産の相続をする場合には、相続登記と呼ばれる手続きが必要となります。相続登記とは、家の名義を「被相続人(亡くなった人)」から相続人に変更するための手続きのことです。ただ、相続登記をおこなうにしても、事前に親族との話し合いや必要書類の準備などいくつかの手続きが必要になります。
ここでは、家を相続する際の基本的な流れをいくつかのステップに分けてご紹介します。
STEP1 家の相続に必要な書類を集める
家の相続で相続登記の手続きを行う場合、さまざまな書類を用意しなければいけません。相続登記では、不動産の地番や家屋番号が必要になるため、それらの情報が記載された書類が必要になるのです。相続登記で必要になる書類は主に以下のような物です。
- 固定資産納税通知書
- 登記済権利証書
- 登記簿謄本
STEP2 相続関係を示す書類を集める
相続登記の手続きを進める場合、相続の発生の事実や相続関係を証明するための書類も用意しなければいけません。例えば、亡くなった人と家を相続する予定の方の関係を証明するため、戸籍謄本や住民票などを用意する必要があります。これらは、役所などで入手できるので、そこまで難しく考えなくて良いです。
なお、家の相続などに必要になる書類については、相続方法によって微妙に異なります。相続でも、遺言による相続や遺産分割による相続など、いくつかのパターンがあり、それぞれ必要となる書類が異なるのです。この辺りはまた別の機会に解説したいと思います。
STEP3 遺産分割協議を行う
遺言書などが用意されていない場合、相続人全員で遺産分割協議を行わなければいけません。遺産分割協議とは、家を含む相続財産について「誰が、何を、どのようにして相続するのか?」ということを話し合うためのものです。
相続人は複数いるはずなので、全員で話し合いを行い、話し合いで決まった内容を遺産分割協議書に記載し、相続人全員で署名・押印します。遺産分割協議はこれで終了です。なお、遺言書がある場合は、遺産分割協議は不要です。
STEP4 申請書を作成し登記申請する
相続登記に必要な情報や書類が揃ったら、「登記申請書」を作成します。登記申請書については、法務局のHPからひな形をダウンロードすることができるので、それをもとに作成すれば良いです。
なお、相続登記の手続きを司法書士などの専門家に依頼する場合、司法書士が作成してくれます。
家の相続にかかる費用について
家を相続する際にはさまざまな面で費用がかかります。例えば、先ほどご紹介した戸籍謄本などを取得する場合、その発行手続きの費用を役所で支払わなければいけませんよね。これ以外にも、相続税など、税金の支払いが発生したりするので、それなりの費用がかかってしまうのです。
ここでは、家の相続に関わるお金についてもご紹介します。
必要書類を用意しるための費用
先程ご紹介したように、家の相続手続きを進める際には、さまざまな書類を用意をしなければならず、そして書類を取得する際には手数料がかかります。家の相続に関わる書類の取得費は、主に以下のような金額となります。
- 登記事項証明書・・・不動産1物件につき600円
- 戸籍謄本類の発行手数料・・・1通500~700円程度
- 印鑑登録証明書・・・500円程度
郵送で手続きを行う場合には、上記以外に郵便代が発生します。各書類には有効期限などあるので、その点は注意しましょう。
相続手続きを司法書士に依頼する場合、その報酬
不動産の相続手続きは、さまざまな書類を用意しなければいけませんし、専門性が高い申請書の作成など、一般の方が行う場合は余計な時間がかかってしまいます。そのため、相続登記を専門家である司法書士に依頼する方が多いのです。ただ、相続手続きを司法書士に依頼する場合には、報酬を支払わなければならないので、その費用を頭に入れておきましょう。
司法書士に支払う報酬の費用については、物件数や不動産評価額などによって上下します。一般的には、3~10万円程度の費用を報酬として支払うのが相場となっています。
相続税の申告を税理士に依頼する場合、その報酬
家の相続だけに限りませんが、何らかの遺産を相続する場合、相続税が課せられる場合があります。相続税の申告は、一般的な確定申告よりも複雑で分かりにくいこともあり、税理士に依頼する方が多いです。
そして、税理士に相続税の申告業務を依頼する場合には、その報酬を支払う必要があります。税理士の報酬の相場は、相続財産の0.5〜1%程度と考えておきましょう。
家の相続する場合の税金について
家を相続する場合には、相続税や登録免許税がかかります。登録免許税は単純なのですが、相続税に関しては算出方法なども複雑なので、この部分は専門家に依頼しなければならないでしょう。ここでは、それぞれの税金の基礎知識をご紹介しておきます。
登録免許税について
登録免許税は、相続登記など、登記手続きを進める際にかかる税金です。課税額については、不動産の固定資産税評価額の0.4%となっています。
例えば、評価額1000万円の不動産の場合、登録免許税は0.4%をかけ、4万円となります。
相続税について
相続税は、家を含む相続した財産の総額から算出します。ただ、家は現金や預貯金などと異なり、金額が明確ではないため、課税額を決定するには、以下の評価方法によって価値を算出しなければいけません。
- 土地:路線価
- 建物:固定資産税評価額
一般の方では、路線価が何なのかすら分からない…という場合も多く、専門知識を持っていない方では正確な価値を算出することは難しいです。そのため、相続税の算出は税理士などの専門家に依頼することになるわけです。
なお、家の相続税評価額が算出出来たら、基礎控除の算出を行い、課税対象額相続税額を算出します。相続性は、「3,000万円+600万円×法定相続人」が基礎控除と認められているため、全ての方に高額な相続税が課せられるわけではないのです。また、相続税は、このほかにも節税方法がいくつか存在します。
家の相続税を節税するには?
家の相続は、相続税の負担を軽減できる控除や特例がさまざまあります。税理士さんなどに相談すれば、きちんと教えてもらえますが、以下のような控除や特例があるということは頭に入れておきましょう。
- 相続税の配偶者控除:配偶者が相続する場合、1.6億円まで課税されない
- 小規模宅地等の特例:被相続人が所有していた土地の評価額が50〜80%減額される
- 相続空き家の特例:被相続人が亡くなったことで空き家となった場合、その空き家を売却した売却益から3,000万円控除できる
上記以外にも「配偶者居住権」や「取得費加算の特例」など、さまざまな特例が用意されています。家の相続は、それに関わる法律なども非常にややこしいので、手続きは税理士などの専門家に依頼するのがおすすめです。
家を相続したくない場合はどうする?
家の相続については、既に離れた場所に自分の家を持っているという方の場合、維持・管理の手間を考えると「相続したくない…」と考えてしまうことも多いようです。近年では、空き家の管理について、かなり厳格に行わなければならないようになっていますし、頻繁に掃除などのお手入れをするのが難しい場所に住んでいる方の場合、相続する方が負担が大きくなるケースもあるのです。
それでは、このような時にはどうすれば良いのでしょうか?ここでは、家を相続したくないと考えた時の対処法をご紹介します。
相続放棄をする
一つ目の対策としては、相続放棄をするという手段があります。相続放棄は、その言葉から分かるように、相続権を放棄するための手続きです。
注意が必要なのは、相続財産については、不要な物だけ放棄して必要なものは相続するといった対処ができない点です。日本の法律では、相続する場合は財産も負債もまとめて相続しなければいけませんし、放棄する場合はすべての遺産が相続できなくなるのです。
したがって、相続放棄という手段は、「負債の方が大きい」場合や「家以外に相続したい遺産がない」場合に限りおすすめできる方法と言えます。現金や預貯金など、家以外にも相続財産があるという場合は、下で紹介する相続した後に売却するという方法が良いでしょう。
なお、相続放棄については、相続開始を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申請しなければいけません。この期間を過ぎると、相続したくないと考えていても、相続放棄できなくなる恐れがあります。
相続したうえで売却する
家以外にも、現金や預貯金など、相続したい財産があるという場合、相続放棄という選択は難しいです。この場合、家の管理が難しいと考えるのであれば、一旦は相続したうえで売却すると良いでしょう。
なお、親が住んでいた地方の家の場合、老朽化が進み、そのままでは買い手がなかなかつかない…というケースも少なくありません。この場合は、建物部分を解体し、更地にしてから売りに出す方が買手を見つけやすいです。家を手放す方法では、これ以外にも自治体に寄付するといった方法もあるので、自分にとって最も利益がある方法を検討すると良いでしょう。
相続したうえで売却するメリット
相続放棄ではなく、一旦相続したうえで売却するという方法は、いくつかのメリットがあります。
- メリット1 維持・管理のコストや手間がかからなくなる
家を相続した場合、そこに住んでいなくても、維持・管理の手間や税金などのコストがかかります。空き家の増加が社会問題となっている昨今では、放置空き家にはかなり厳しいペナルティが科せられるようになっていて、維持管理を怠り特定空き家に指定されると固定資産税が6倍にまで跳ね上がってしまうのです。特定空き家に指定されないないためには、小まめにお手入れをしなければならず、それには手間もコストもかかります。また家を所有していれば、それだけで税金や保険など、さまざまな費用がかかります。売却してしまえば、これらの手間やコストがかからなくなります。 - メリット2 まとまった現金が手に入る
相続したうえで売却すれば、相続財産を現金化することが可能です。これは分かりやすいメリットですね。 - メリット3 節税効果が期待できる
相続した家を売却する場合、「相続空き家の3,000万円特別控除の特例」を適用できる場合があります。家や土地など、不動産を売却する際には、売却代金から取得費や売却費用を差し引いた利益に、譲渡所得税が課せられます。ただ、相続した土地の場合、売却益から3,000万円が控除できるという特例があるため、譲渡所得税を大幅に節税できるのです。
既に遠方に自分の自宅を所有しているという方の場合、空き家として所有しても負担が大きくなってしまう可能性が高いため、売却を検討すると良いでしょう。そして、相続した家の売却には、上記のようなメリットがあるのです。
家の相続に関する注意点
それでは最後に、家の相続に関わる注意点についてもご紹介します。
共同名義での相続は避ける
家の相続に関しては、複数の相続人で共同名義にすることも可能です。ただ、不動産の共同名義による相続は、後々のトラブルに発展する恐れがあるので注意しましょう。
例えば、相続した不動産の売却を考えた時には、名義人全員の同意が必要になります。一人でも反対意見の方がいれば売却できませんし、認知症を発症した人などがいても、スムーズに取引を進められなくなるのです。特に、共同名義人のうちだれかが亡くなってしまった時には、関係の薄い人がその権利を相続して、意思疎通などがより難しくなる可能性もあります。
不動産の共同名義での相続は、売却や処分を考えた時、トラブルに発展しやすいので注意しましょう。
遺産分割時の取り扱いに注意
遺産分割をする際には、現金や不動産など、形式に区別がありません。そのため、複数人で遺産を分割する際にトラブルになりやすいのです。例えば、以下のようなケースは珍しくありません。
家(価値3000万円)と1000万円の預貯金を2人の法定相続人で分割する場合、遺産総額は4000万円と換算されるため、それぞれは2000万円ずつ相続する権利が生じます。
この場合、家を相続する人と、預貯金を相続する人という形で納得してもらえれば話は簡単なのですが、預貯金を相続する方が残りの1000万円を要求してきた場合、家を相続する人が現金などで補填しなければならないのです。家を売却して相続するのであれば、平等に分割することが可能ですが、家を相続した人が継続して住むという場合、自分の資産から遺産分割の代償金を支払う必要があるわけです。
家などの不動産の相続では、現金化が難しいという面で遺産分割トラブルが起きやすいので注意しましょう。
まとめ
今回は、家の相続に関わる基礎知識をご紹介しました。昨今では、核家族化が進んでいると言われていて、親世代と子世代が別々に家を所有するという形が珍しくなくなっています。このような形態は、両者が健康で元気なうちは何の問題も生じないのですが、親世代が亡くなって家の相続が必要になった際におおきな問題に発展しやすいのです。
記事内では、家の相続の流れや注意点、家を相続したくないと考えた時の対処法などを紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。昨今では、放置空き家に対して厳しい目が向けられるようになっていますし、自分が住まないとわかっている家の相続は、負担ばかりが増えてしまう結果になりやすいです。