近年では、憧れのマイホームを手に入れる方法として、中古の空き家を購入して全面的にリノベーションするという方法が人気になっています。別記事でもご紹介していますが、日本国内では空き家の増加が社会問題になっており、法律で空き家の管理が義務付けられたことから、「無料(タダ)でもいいから空き家を手放したい!」と考える方が増えています。そのため、大幅なリフォームが前提にはなるものの、家を入手するために必要なコストが大幅に削減できると、空き家リノベーションが人気になっているわけですね。
実際に、インターネットで空き家のリノベーション事例を確認してみると、中古住宅とは思えないほどオシャレな物件を見かけることも多いですし、「こんなおしゃれになるうえ安いなんて、空き家を手に入れるのが一番かも!」と考えてしまう方も少なくないようです。しかし、ネット上に公開されているリノベーション事例については、これをそのまま鵜呑みにするのは少し危険です。空き家が安く入手できるのは、間違いない事実ではあるのですが、きちんと物件選びを進めないと、後々困ったことになりかねないのです。
そこでこの記事では、近年注目されている空き家リノベーションという方法について、新築を購入するのと比較した場合のメリット・デメリットについて解説します。なお、記事内では、空き家のリフォームに利用できる補助金情報についても解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
空き家リノベーションが人気になっている理由とは?
それではまず、空き家リノベーションやリフォームが人気になっている理由から簡単に解説します。日本国内で、空き家をリノベーションして住むという活用法が人気になっている背景は、単純に国内の空き家の件数が増えすぎてしまったことが要因です。実は、日本国内での空き家件数は、以下のグラフのように、急速に増加しているのです。
上のグラフから分かるように、日本国内の空き家数は年々増加しており、令和5年においては総住宅数のうち、空き家が900万戸と、2018年(849万戸)と比べても、51万戸の増加で過去最多となっています。この数字は、統計が始まった60年前と比較すると、なんと約17倍にも増加しているという結果になるのです。そしてさらに、少子高齢化が社会問題となっている日本では、今後さらに空き家の件数が増加していくと予想されています。
空き家の増加に関しては、「誰にも迷惑をかけないのだから別に良いのでは?」と考えてしまう方もいますが、適切に管理されていない空き家の増加は、地域全体に悪影響を及ぼす非常に深刻な問題なのです。例えば、放置空き家は、以下のような悪影響を地域全体に与える可能性があるとされています。
- ・害獣の繁殖により、糞尿による悪臭や騒音問題を引き起こす
- ・災害時に倒壊して避難経路を塞いでしまう
- ・放火などにより周囲の住宅が延焼するリスクが生じる
- ・犯罪者の隠れ家、不良のたまり場になるなど、地域の治安の悪化を招く
- ・雑草の繁殖などにより景観を壊す
空き家の放置は、上記のような問題を引き起こします。空き家は、その物件そのものの価値を下げていくだけでなく、地域全体の景観や治安を悪くするなどと言った問題から、近隣住宅全体の資産価値を下げるリスクまで生じるのです。
空き家問題については、国も「これ以上、放置空き家を増やさない!」ということを考えていて、空き家の管理を厳格化する動きになっています。実際に、ここ数年、空き家に関わる法律の改正が何度も行われていて、物件の所有者には「適切に家を管理する」ことが義務付けられるようになっていて、これが空き家をリノベーションして住むという動きにつながっているのです。
国が空き家の流通や再利用に力を入れている
近年、空き家のリノベーションやリフォームが人気になっているのは、上記のように、国内で空き家が急増しているというのが背景になっています。そして、放置空き家は、周辺地域にも多大な悪影響を与えるということから、国を挙げて空き家の流通と再利用を促進するため対策が打ち出されているのです。
例えば、2023年3月に閣議決定された空家等対策特別措置法の改正案では、放置空き家をこれ以上増やさないため、最悪の場合は固定資産税が6倍になるといった罰則まで用意された内容になっています。もちろん、空き家を所有しただけで固定資産税が6倍になるなんてことはなく、さまざまな過程を経て最悪の場合は…という話です。ただ、今までは、空き家を所有していたとしても、コスト的なデメリットなどを抱える心配はなかったのですが、今後は非常に悩ましい税金の問題が生じるとなれば、空き家の流通が活発になると考えられるでしょう。
さらに、空き家の再利用については、いくつかの条件が設けられているものの、それを満たしている場合はリフォームやリノベーションの費用を補助してくれる補助金制度なども設けられています。これは、空き家の再利用を活性化させるための国の対策になります。
こういったことから、遠方に住んでいて空き家の管理ができない…という方が、「安くても(無料)良いから空き家を手放したい」と考える人が増えているのです。そして、「安価にマイホームを手に入れたい!」という要望と合致するため、空き家リノベーションの注目度が高まり、マイホーム選びの選択肢の一つとして認知されるようになったわけです。
ちなみに、空き家のリノベーションに関しては、自分たちが住むのではなく、賃貸物件として活用するためという動きも活発化しています。
参照:空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律について
空き家リノベーションのメリットとは?
それでは次に、マイホームを入手する方法として、新築住宅の購入ではなく、空き家リノベーションを選ぶ場合のメリットについて解説していきます。空き家の再利用は、国や自治体もかなり力を入れるようになっていますので、慎重に物件探しを進めれば、安価に条件の良い家を手に入れられる可能性があります。
ここでは、空き家を入手して、リノベーションやリフォームすることで住めるようにするという方法のメリット面について代表的なポイントをご紹介します。
新築よりも安価に家が手に入る
空き家リノベーションの最大のメリットは、新築住宅を購入する場合と比較すると、家を手に入れるためにかかる費用が安くなるという点があげられます。
空き家は、そもそも中古住宅ですので、新築住宅よりも安く購入できるのは当然です。ただ、中古住宅の中には、信じられないほど安く販売されている物件も存在するのです。これは、上で紹介した空き家の適切な管理が義務付けられたことが関係しており、空き家所有者の中には「お金よりもとにかく早く手放したい!」と考えている方も多くなっているのです。
そのため現在では、「空き家を無料で差し上げます」「空き家を貰ってください」と言ったネット上の書き込みも増えているなど、物件そのものは「0円」で手に入れることも可能な時代になっています。もちろん、0円物件に関しては、建物の状態はかなり悪いと想定できますので、入手後のリフォーム・リノベーションに多額のコストがかかってしまうかもしれません。それでも、家の入手にかかるコストは、新築よりも圧倒的に安く収まりますので、大きなメリットと言えるのではないでしょうか。
関連:「空き家を無料で差し上げます」は本当にタダ(0円)で家が手に入る?ゼロ円物件取得のカラクリをご紹介
好立地の物件が見つかる可能性がある
新築ではなく、空き家を購入してリノベーションをかけるという方法は、家の選択肢が増えるという点もメリットです。
中古住宅も選択肢に含めることができれば、自分たちが望んでいる立地条件に見合う物件を見つけやすくなります。特に近年では、駅チカなどの好条件の立地は、大規模マンションのような集合住宅が土地を確保してしまうため、新築戸建ての場合は、立地に関して妥協しなければならない場合が非常に多くなっています。
しかし、築年数が経過した空き家の場合、土地がまだ入手しやすかった時代に建てられているため、現在では考えられないような好条件の立地が見つかるケースもあるのです。もちろん、立地が良ければ土地部分にコストがかかるものの、新築では手に入れられない好立地な場所に住める可能性があるというのは大きなメリットです。
現在の新築よりも広い物件が多い
築年数が経過した空き家の場合、現在販売されている新築と比較すると、土地面積が広い場合が多いです。現在の新築業界は、狭小地に三階建て住宅を建築する場合が増えていますが、空き家リノベーションの場合は、建物が古いことに目を瞑ると、都市部でも庭付きが手にはいる可能性があるなど、広い家を購入できる可能性があるのです。
もちろん、新築でも広い家を手に入れることは不可能ではありませんが、家を購入する際にかかるコストがかなり高くなってしまうでしょう。空き家リノベーションの場合、物件自体は『無料』で手に入れることができる可能性もある点は非常に大きなメリットになるでしょう。
空き家リスクを回避できる
これは、空き家の所有者が、状態の悪い空き家を放置するのではなく、リノベーションする際に得られるメリットです。空き家リノベーションは、当然、「購入した家をリノベーションする」以外にも「相続した家をリノベーションする」というケースも考えられます。
上述したように、放置空き家が社会問題化している現在では、所有者に対して、適切な空き家の管理が義務付けられています。空き家の管理を怠り、特定空家に指定された場合には、固定資産税が最大6倍になったり、行政主導で建物が解体されその解体費を請求されるなど、コスト的なリスクが非常に大きくなるのです。
空き家をリノベーションして、人が住める状態になれば、所有者自身が自分の家として利用する以外にも、賃貸に出すことができるようになるため、空き家を放置することがなくなり、空き家リスクが回避できるのです。
空き家リノベーションのデメリットとは?
空き家リノベーションは、慎重に物件選びを進めなければ、後から困ったことになる場合も少なくありません。
ここでは、空き家リノベーションでマイホームの入手を考えている方に向け、注意すべきデメリット面をご紹介します。
リフォーム・リノベーションに想像以上のコストがかかる
当然ですが、空き家の状態は、それぞれの物件で全く異なり、入手後のリノベーション、リフォームにかかる費用も大きな差が生じます。中には、「新築を買っておけばよかった…」と後悔するレベルの費用がかかってしまうケースもあるので、空き家の購入を検討している場合、慎重に物件選びを進めなければならないと考えてください。なお、空き家のリノベーションにかかる費用が高くなる要因は、主に以下のような問題がある場合です。
- シロアリ被害が発生していて、その補修と消毒が必要
- 雨漏りが発生していて、原因調査と補修が必要な場合
- 耐震補強が必要な場合
例えば、空き家の中でも旧耐震基準が採用されていた1981年以前に建てられた物件は、リノベーション以外に建物の耐震補強工事が必要で、その部分に多額の費用がかかってしまうケースがあります。この他にも、物件のリノベーション工事の段階で、床下にシロアリ被害が見つかった…なんて場合、その対処のための費用で予算をオーバーしてしまう…と言ったケースもあるようです。
空き家リノベーションは、物件を購入するための費用とリノベーションにかける費用を合算しても、新築よりも安いことがメリットとみなされています。しかし、物件の劣化状況を慎重に確認しなければ、想像以上のリフォーム費用がかかってしまい新築を購入するのとあまり変わらないレベルのコストになってしまうこともあります。さらに最悪の場合、物件購入後に建替えなければならないことが判明する…なんてことも考えられるでしょう。
なお、生活に必要になる各種住宅設備については、基本的に総入れ替えになると想定しておいた方が良いです。特に、安価に手に入るような空き家の取引の場合、給湯器やキッチン、お風呂やトイレなどの設備は、かなり老朽化が進んでいると考えられるため、設備の総取り換えに多額のコストがかかってしまう可能性が高いです。
理想の間取りがつくれないケースがある
空き家リノベーションは、安価に好立地な物件が入手できる点が大きなメリットです。しかし、購入する物件によっては、自分たちが理想とする間取りを実現することが難しい場合があります。これは大きなデメリットと言えるでしょう。
一般的に、木造戸建ての空き家は比較的間取りの自由度が高いと言われています。しかし、構造によっては思い通りのリノベーションが難しいケースもあるのです。例えば、建物の構造上重要な「通し柱」や「筋交い」を撤去もしくは移動させることが難しく、そのせいで理想の間取りが作れない…なんてことになるケースが多いです。
リノベーションを前提として空き家の購入を行う場合、可能であれば物件を購入する前にリノベーションを依頼する業者に見てもらい、自分たちが考えている間取りが実現できそうなのか確認してもらうのがおすすめです。
住宅ローンが利用できない可能性がある
中古住宅の購入は、新築住宅の購入と比較すると、住宅ローンの審査が厳しくなります。これは、中古住宅の場合、建物の資産価値が低下しているため、金融機関としても担保価値が足らないとなってしまうからです。特に、大幅なリノベーションを前提として購入する空き家の場合、資産価値がほとんどないとみなされることから、住宅ローンの利用はかなり難しいです。
もちろん、物件購入後、リフォームローンを利用してリノベーションをかけるなどといった方法もありますが、住宅ローンを利用して中古住宅を入手したいと考えている人は注意が必要です。
空き家リノベーションは補助金や税制優遇措置が用意されている
日本国内では、空き家の急増が社会問題化しています。先ほどご紹介したように、適切な管理がなされていない空き家の増加は、その地域の治安や外観の悪化を招くなど、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。
そこで国は、空き家の積極的な流通と再利用を後押しするため、補助金や税制優遇などの措置を行うようになっているのです。ここでは、空き家リノベーションを検討した時に、上手に利用することでコスト的な負担を軽減できる対策をいくつかご紹介します。
空き家リフォーム・リノベーションの補助金
空き家のリフォームやリノベーションは、各自治体が補助金を用意している場合がほとんどです。例えば、大阪市であれば、空家利活用改修補助制度と呼ばれる補助金が用意されていて、「性能向上に資する改修工事:1戸あたり75万円(限度額)」「地域まちづくりに資する改修工事:300万円(限度額)」などのように、多額の補助金が出る場合もあるのです。
この他にも、近年では、住宅の断熱化や省エネ化リフォームに手厚い補助金が用意されるようになっていますので、それらの補助金を活用すれば、空き家のリノベーションにかかるコストを大幅に軽減することも可能です。
参考:大阪市「空家利活用改修補助制度」
耐震・省エネリフォームで減税対象になりやすい
空き家リノベーションにおいては、耐震改修や省エネリフォームを実施することで、減税制度も利用しやすいというメリットがあります。主に「所得税の控除」と、「固定資産税の減額」が期待できるため、以下で簡単にご紹介します。
■所得税の控除について
所得税の控除は、主に以下の二つのケースがあります。
- 「住宅ローン」減税
- 所得税額の特別控除(投資型)
住宅ローン減税の場合は「10年以上の住宅ローンがある」、所得税額の特別控除は「自己資金でリフォームを行う場合」など、いくつか満たさなければならない条件があるものの、空き家リノベーションの際に活用できる可能性があります。
■固定資産税の減額について
固定資産税の減額は、「省エネ」リフォームの場合、本人が居住するための工事のみ適用されます。一方、「耐震」リフォームに関しては、賃貸として使用するためであっても減税対象となります。
なお、減額の対象者、控除額、期間などについては、また別の機会に解説したいと思います。
※「リフォームをしたら固定資産税が上がるのでは」と気にする方がいますが、確認申請が必要となる増築工事などにあたらなければ、基本的には固定資産税は上がりません。
まとめ
今回は、新たな家の入手方法として注目されている、空き家リノベーションについて解説しました。空き家リノベーションは、その名称から分かるように、空き家を購入して自分の理想の間取りにリノベーションするという方法を指しています。記事内でご紹介しているように、現在の日本では、誰も住まなくなった空き家の急増が社会問題化しています。もちろん、状態の良い空き家は、中古住宅市場で問題なく取引されているのですが、管理を怠った空き家が増加していて、地域の景観や治安の悪化、災害時の危険度の増大などの問題を引き起こしているのです。
そのため、国や自治体では、これ以上、放置空き家が増えていかないように、中古住宅の流通や再利用を活性化させるための対策を打ち出すようになっており、空き家のリノベーションは、補助金が活用できたり、税制優遇を受けられたりするようになっているのです。
日本の住宅業界は、「新築信仰が強い」などと揶揄されているように、家の購入を考えている方の多くは、中古住宅ではなく新築住宅の購入ばかりに着目してしまいます。ただ、世の中には好立地で安価に手に入れられる空き家が増えていますので、中古住宅市場にも目を向けてみるのも良いのではないでしょうか?
悠建設では、空き家を理想の間取りに作り替えるためのリノベーションもお受けしていますので、中古住宅の購入を検討している方は、お気軽にご相談ください。リノベーションを前提とした中古住宅の購入は、「理想の間取りが作れる物件なのか?」を専門家と一緒に探すのが最も効率的です。