今回は、新築住宅の購入を検討した時、上手に活用することでマイホームに設置する設備のコスト負担を軽減してくれる補助金制度について簡単に解説します。
地球温暖化などの環境問題への取り組みが世界中で重要視されている中、日本でも2050年にカーボンニュートラルの実現を目指すという宣言が行われています。カーボンニュートラルは、脱炭素社会などとも言われますが、簡単に言うとCO2などの温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするということを指しています。そして、カーボンニュートラルの実現には、一般家庭領域での省エネ対策が非常に重要とされており、省エネを実現するための設備の導入を国が強く推進するようになっているのです。
例えば、住宅の給湯を担う給湯器については、ガス火を利用して水を暖めるガス給湯器が広く普及しているものの、従来型のガス給湯器は給湯の際に多くのCO2を排出することになるため、この部分の省エネ、CO2排出量削減のため、高効率給湯器の導入・入れ替えに補助金が制定されているのです。なお、住宅領域の省エネを実現するための補助金制度は、住宅の断熱性の向上や高効率給湯器の導入などによる住宅省エネ化を支援する4つの補助事業が用意されています。そしてこの4つの補助事業をまとめる形として『住宅省エネ2024キャンペーン』が運営される形となっています。
この記事では、住宅省エネ2024キャンペーンの中でも、給湯部分の省エネを補助するための、給湯省エネ2024事業について解説します。
給湯省エネ2024事業とは
給湯省エネ2024事業は、住宅省エネ2024キャンペーンの中の一つの事業で、正式名称は「高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金」となっています。補助金の名称から分かるように、従来型の給湯器よりも効率の良い給湯システムの導入を促進することで、一般家庭の給湯部門における省エネを実現するのが目的です。ちなみに、補助金の対象となる高効率給湯器のとは、電気でお湯を沸かすエコキュートやハイブリット給湯器、家庭用燃料電池で、それぞれの機器の詳細は後述します。
給湯周りの設備導入・交換に補助金が出るのは、家庭で消費するエネルギーの中でも給湯が占める割合が多いためと考えられます。実は、資源エネルギー庁の「エネルギー白書2020」によると、家庭内のエネルギー消費量の内、なんと約3割を給湯が占めているとされ、一般家庭領域での省エネを実現するためには、この部分の省エネの促進が非常に重要だと判断されたのだと思います。
住宅省エネ2024キャンペーンでは、「子育てエコホーム支援事業」「先進的窓リノベ2024事業」などその他の補助事業もありますが、お風呂やキッチンの給湯を一手に担う給湯器は、どのような住宅でも設置することになるため、対象工事がシンプルな分、非常に活用しやすい補助金と言えます。また、2024年度の給湯省エネ事業に関しては、2023年度と比較しても、補助金額が大きく増額されているため、省エネ性の高い給湯器を設置したいと考えている方にとっては、うってつけの補助金制度と言えます。新築時に、高効率給湯器を設置しておけば、日常生活で給湯に使用するエネルギーを削減することができるため、光熱費の削減にもつながります。
給湯省エネ2024事業は新築住宅も対象
給湯器の購入や交換に対する補助金制度と聞くと、なんとなく従来型の給湯器を利用している方に対し、省エネ性の高い給湯器に交換を促すことで一般住宅領域の省エネを目指すものというイメージが強いかもしれませんね。つまり、給湯省エネ2024事業については、給湯器のリフォームが補助対象者だと勘違いしている方が意外に多いのです。
給湯省エネ2024事業で補助金を受けることができるのは、以下のような方と定められています。
- 新築注文住宅・・・住宅の建築主
- 新築分譲住宅・・・住宅の購入者
- 既存住宅(リフォーム)・・・工事発注者
- 既存住宅(購入)・・・住宅の購入者
上記のように、給湯省エネ2024事業は、新築住宅、既存住宅問わず、高効率給湯器の導入もしくは交換を行う場合、補助金の対象者となることができます。住宅の形態についても、戸建てやマンションなど、種類は問いません。注意が必要なのは、既存住宅に関しては、すでにエコキュートやハイブリッド給湯器などの高効率給湯器が設置されている場合は対象外となります。
補助対象となる住宅の条件については以下のように定められています。
- 新築住宅・・・1年以内に建築された住宅で、かつ居住実績がない住宅をいいます。(本事業において「建築日」は、原則、検査済証の発出日とします。)
- 既存住宅・・・建築から1年が経過した住宅、または過去に人が居住した住宅をいいます。(未使用の対象機器が設置されていても、既存住宅の購入は補助対象になりません。)
給湯省エネ2024事業の補助対象機器とは
それでは、給湯省エネ2024事業の補助対象機器の詳細をご紹介します。上述しているように、給湯省エネ2024事業は、一般家庭の給湯部門の省エネの実現を目的とした補助金制度なので、対象となる機器は限定されています。
補助金の正式名称にあるように、高効率給湯器の普及推進が目的で、エコキュートやハイブリット給湯器など、従来型の給湯器と比較して、省エネでCO2排出量削減を実現できる物に限定されています。詳しくは、以下の3種類の給湯器が対象機器となります。
ヒートポンプ給湯器(エコキュート)
画像引用:給湯省エネ2024事業公式サイト
ヒートポンプ給湯器という名称は聞き馴染みがないと思いますが、これはいわゆるエコキュートという名称で販売されている給湯器です。エコキュートは、電気をエネルギー源とした給湯システムで、エアコンなどにも採用されているヒートポンプシステムが組み込まれていることで、大気中の熱もお湯を沸かす際に利用することができます。電気と大気熱でお湯を沸かすという仕組みになっていることから、従来型の給湯器と比較しても、かなり効率的にお湯を作ることができます。
エコキュートの特徴は、「エネルギー源が電気である」ことと「貯湯式の給湯器である」ことです。例えば、貯湯式であることから、電力会社が用意している深夜帯の電気料金単価が格安になるプランを活用して、日々の給湯にかかるコストを大幅に削減することができるようになります。従来型のガス給湯器と比較すると、年間の給湯コストは、1/2~1/4にまで削減できるとされています。
さらに、エコキュートは電気をエネルギー源としていますので、年々導入台数が伸びている太陽光発電や家庭用蓄電池との相性が非常に良いです。また、キッチンのコンロをIHクッキングヒーターにすれば、オール電化住宅を実現することも可能なので、一般家庭で利用される給湯器としてのシェア率は年々伸びていると言われています。太陽光発電+家庭用蓄電池+オール電化という体制を作ることができれば、日々の生活にかかる光熱費を0円にすることも不可能ではありません。
なお、エコキュートを導入する場合でも、給湯省エネ2024事業の補助対象となるためには、いくつかの性能要件を満たしている必要があり、公式サイト内では『省エネ法上のトップランナー制度の対象機器である「エコキュート」であること。』と説明されています。
ハイブリッド給湯器
ハイブリッド給湯器は、ヒートポンプ給湯機とガス温水機器を組み合わせた製品で、二つの熱源を効率的に用いることで高効率な給湯が可能だとされています。ただ、通常のガス給湯器やエコキュートと比較すると、見かける機会はまだ少ないと思います。
現在のハイブリット給湯器は、従来型の給湯器の進化版であるエコジョーズ(排熱も利用してお湯を沸かすようになっています)と空気熱を活用してお湯を作ることができるヒートポンプが組み合わされています。このタイプの給湯器は、素早くお湯をつくれるガスと、効率的な電気の良い部分を併せ持っていて、貯湯タンクはもつものの、エコキュートのようなお湯切れの心配がないことから、新しい給湯システムとして注目されています。
なお、ハイブリット給湯器に関しても、以下のような性能要件を満たしている必要があります。
- 熱源設備として電気式ヒートポンプとガス補助熱源機を併⽤するシステムで、貯湯タンクを持つ機器であること。
- 一般社団法人日本ガス石油機器工業会の規格(JGKAS A705)で、年間給湯効率が108%以上のものであること。
家庭用燃料電池(エネファーム)
最後は、家庭用燃料電池です。エネファームという名称の方が有名かもしれませんね。
エネファームは、単純な給湯器ではなく、都市ガスやLPガスの水素と空気中の酸素を利用して発電することも可能な設備だという特徴があります。発電時に発生する熱を利用してお湯を沸かすことができるため、高効率給湯器に分類されています。
エネファームの魅力は、給湯器として利用できるだけでなく、他の機器にはない発電機能まで持っている点です。ただ、エネファームは、エコキュートやハイブリット給湯器と比較すると、本体価格が圧倒的に高額になるため、その点には注意しなければいけません。
補助対象となるエネファームについては、「一般社団法人燃料電池普及促進協会(FCA)が公表する登録機器リストに登録されている製品を対象とします。」という要件がつけられています。
給湯省エネ2024事業の補助金額について
それでは最後に、給湯省エネ2024事業について、どの程度の補助金が出るのかについてもご紹介していきます。当然、高効率給湯器でも、何を設置するのかによって費用が変わるため、導入する給湯器の種類ごとに補助金額の上限が決められています。
エコキュートに対する補助金額
エコキュートの設置に対しては、「8万円/台」が基本額として設定されています。2023年度の同補助金では、エコキュート1台当たり5万円でしたが、さらなる高効率給湯器の普及を目指してか、補助額は増額されています。
さらに、以下の性能要件を満たすエコキュートの導入には、補助金が加算されます。
- A要件
インターネットに接続可能な機種で、翌日の天気予報や日射量予報に連動することで、昼間の時間帯に沸き上げをシフトする機能を有するものであること。 - B要件
補助要件下限の機種と比べて、5%以上CO2排出量が少ないものとして、a又はbに該当するものであること。(a.2025年度の目標基準値(JIS C 9220 年間給湯保温効率又は年間給湯効率(寒冷地含む))+0.2以上の性能値を有するもの、又は、b.おひさまエコキュート)
A要件を満たす場合には「+2万円/台」、B要件を満たす場合は「+4万円/台」、AとB両方の要件を満たすものに関しては「+5万円/台」が加算されますので、2024年度のエコキュートの導入に対しては最大で13万円もの補助金がでることになっているのです。
ハイブリット給湯器に対する補助金額
次はハイブリット給湯器に対する補助金額です。ハイブリット給湯器は、本体価格がエコキュートよりも割高なため、基本額として10万円/台という設定になっています。ちなみに、2023年度は、こちらも5万円だったので、一気に補助金額が2倍になっています。
もちろん、ハイブリット給湯器についても、性能加算要件が設けられていて、以下の要件を満たすものは、補助金が加算されます。
- A要件
インターネットに接続可能な機種で、昼間の再エネ電気を積極的に自家消費する機能を有するものであること。 - B要件
補助要件下限の機種と比べて、5%以上CO2排出量が少ないものとして、以下の要件に該当するものであること。(一般社団法人日本ガス石油機器工業会の規格(JGKAS A705)に基づく年間給湯効率が116.2%以上のものであること。)
ハイブリット給湯器は、上記の要件を満たしている場合、補助金額が加算されます。加算額については、A要件もしくはB要件のどちらかを満たしている場合は「3万円/台」、AとB両方の要件を満たしている場合は「5万円/台」が加算されます。
エネファームに対する補助金額
最後はエネファームに対する補助金額です。エネファームへの補助金は、上で紹介した二つの機器と比較すると、圧倒的に高額な18万円/台という補助額が設定されています。ただ、この補助金額は、国がエネファームを推奨しているというわけではなく、エコキュートなどと比較すると、エネファームの本体価格が圧倒的に高額だからです。給湯省エネ2024事業の補助対象に入るようなエコキュートは、施工費を合わせても50万円前後で購入することができます。ただ、エネファームについては、最も安い機種でも100万円前後の価格設定ですし、高性能な物になると200万円近い価格帯になります。エネファームは、本体価格が非常に高額な設定になっていることもあり、基本となる補助額が高く設定されているわけですね。
なお、エネファームは「ネットワークに接続可能な機種で、気象情報と連動することで、停電が予想される場合に、稼働を停止しない機能を有するものであること。」という性能要件と満たしている場合、一台当たり2万円が加算されます。
2024年は撤去加算がある
これは、新築住宅は関係ありません。既存住宅について、リフォームにて高効率給湯器の導入を行う場合、もともと使用していた給湯器の種類によっては、給湯器の撤去にかかる費用の一部を補助してもらうことができます。以下の2種類の内、どちらかの給湯システムを使用していた方が、高効率給湯器に入れ替えする場合、その工事に応じた定額が加算されます。
- 電気蓄熱暖房機の撤去:10万円/台(2台まで)
- 電気温水器の撤去:5万円/台(補助を受ける給湯器と同台数まで)
現在、電気温水器などを利用している方であれば、エコキュートに入れ替えすることで、最大で18万円もの補助金を受け取ることができるわけです。
給湯省エネ2024事業の注意点について
ここまでの解説で分かるように、給湯省エネ2024事業は、新築住宅の購入時、給湯器部分にかかる設備費を軽減してくれる非常にありがたい補助金制度となっています。新築時に選ぶ給湯器として、エコキュートのような高効率給湯器を選択しておけば、実際にそこで生活を始めた後のことを考えても、日々の生活にかかる給湯コスト削減が期待できます。つまり、イニシャルコストだけでなく、将来的にかかってくるランニングコストも抑えることができるわけですので、可能であればぜひ利用したい制度だと言えるでしょう。
ただ、給湯省エネ2024事業については、いくつかの注意点がありますので、以下の点はおさえておきましょう。
予算がなくなり次第終了
どのような補助金制度でも同じですが、補助金を利用したいと考えた人全てが利用できるわけではありません。特に、住宅省エネ2024キャンペーンは、昨年度も行われていたのですが、予算の消化がかなり早く、給湯省エネ事業については、9月時点で予算を消化して受付が終了していました。
2024年度は、昨年度よりも予算が増額され、総額で580億円となっていますが、この予算額でも早期の締切になるのではないかと予想されています。予算に達しない場合、2024年12月31日が申請期限に設定されているもの、ほぼ確実にこれよりも早く申請の受付は終了してしまうと思います。
給湯省エネ2024事業の交付申請手続きは、住宅の引き渡しやリフォーム工事完了後となっていますので、タイミングが悪ければ補助金を利用することができなくなる可能性があります。したがって、新築住宅に補助金を利用したいと考えている方は、早めに動くことがおすすめです。
申請に正式な書面が必要
新築や中古住宅の購入に関してはそこまで心配する必要はありません。新築住宅や中古住宅の購入時に、給湯省エネ2024事業を利用する場合、対象機器が設置された物件の不動産売買契約が必要になります。家の購入を、契約書もなしに進めることなど絶対にありませんし、この書類の用意について問題になることはないでしょう。
ただ、リフォームの場合は、馴染みのリフォーム業者に口頭契約で給湯器の入れ替えを頼むなんてケースが考えられるのですが、その場合は補助金の申請ができなくなります。給湯省エネ2024事業を利用したい場合、給湯器の入れ替え工事に関して工事請負契約書を作成しなければならないと決められています。
給湯器に関して子育てエコホーム支援事業を併用することはできない
上述しているように、住宅省エネ2024キャンペーンは、4つの補助事業を一つにまとめた呼び方です。給湯器に対する補助については、記事内でご紹介している給湯省エネ2024事業の他に、子育てエコホーム支援事業という事業もあります。子育てエコホーム支援事業は、補助範囲が非常に広い制度になっているのですが、給湯器に対して、給湯省エネ2024事業と子育てエコホーム支援事業を併用するといった使い方はできないことになっています。
子育てエコホーム支援事業は、住宅の断熱工事などに対する補助もありますので、それらとの併用は可能です。
まとめ
今回は、住宅省エネ2024キャンペーンの4つの補助事業の内、高効率給湯器の導入時に利用できる給湯省エネ2024事業の詳細をご紹介しました。記事内でご紹介したように、給湯は家庭内で消費するエネルギーの約3割を占めているとされるため、この部分の省エネがカーボンニュートラルの実現に向け非常に重要と考えられています。そのため、エコキュートなどの高効率給湯器の導入に対しては、非常に手厚い補助制度が用意されているわけです。
なお、住宅省エネ2024キャンペーンは、このほかにも窓部分の断熱に対する補助金制度なども用意されていますので、その辺りはまた別の機会に解説します。