新築木造戸建ての購入を検討した時には、建物の外観イメージのことを考えて「陸屋根を採用した家を建てたい!」と考える方が増えています。陸屋根は、マンションの屋上のようなフラットな屋根形状で、一般的な傾斜のある屋根とは異なり、屋根面を生活スペースとして活用できる点が特徴です。また、陸屋根を採用した建物は、シンプルでスタイリッシュな外観デザインを実現できる点からも、年々その人気が高くなっています。
そこでこの記事では、これから憧れのマイホーム購入を検討している方に向け、陸屋根とはどのような形状をした屋根で、採用することでどんなメリット・デメリットがあるのかなどについて解説したいと思います。なお、記事内では、陸屋根を採用した場合、絶対に見落とすことができない屋根メンテナンスについても解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
陸屋根とは?
陸屋根という単語を見ても、これがどのような形状の屋根なのかをイメージできないという方も少なくないかもしれません。まず、陸屋根は「りくやね」や「ろくやね」という読み方で、冒頭でご紹介したように、フラットな形状の屋根となることから、別名で平屋根とも呼ばれています。
一般的には、マンションや商業ビルのような鉄筋コンクリート造の建物で採用される屋根形状なのですが、これは、鉄筋コンクリート造の場合、屋根部分もきちんと骨組みが施されているため、陸屋根が施工しやすいからです。また、屋上として活用することができるようになり、大型施設などであれば、屋上部分に各種設備を設置することができるスペースを確保できる点も大きな理由になっていると思います。
近年では、一般の木造戸建て住宅でも、陸屋根を採用したいというお客様が増えています。陸屋根を採用した住宅は、キューブ状の建物外観を実現することができ、シンプルでスタイリッシュな外観を実現できるというのが人気の理由になっています。ただ、木造住宅は柱や壁を支えとして、上に勾配のある屋根を設置するというのが一般的な構造で、本来フラットな屋根形状となる陸屋根は、木造戸建てでの施工には不向きとされています。もちろん、「戸建て住宅では陸屋根が採用できない」というわけではないのですが、それでも一般的な切妻屋根などと比較すると、施工が簡単ではないため、技術力のある施工会社を選ばなければ、後々雨漏りなどに悩まされてしまう恐れがあります。
陸屋根のメリットとは?
それでは次には、新築木造戸建ての購入を検討している方が、屋根に陸屋根を採用するメリットについても解説したいと思います。日本国内でよく見かける屋根形状は、切妻屋根と呼ばれる屋根で、家のイラストなどでもよく見かける三角形の屋根形状をしたタイプです。
ただ、昨今の新築業界では、この記事でご紹介している陸屋根や片流れ屋根と呼ばれる形状が人気になっており、特に陸屋根は、この形状にしかない利点がたくさん存在することで、年々その人気が高くなっています。陸屋根の主なメリットは、以下のような点です。
シンプルでスタイリッシュな外観を実現
近年、新築業界で陸屋根の人気が高くなっているのは、建物の外観デザインについて、スタイリッシュでカッコイイ家を建てられるという声が多いです。
陸屋根を選ぶ方の多くは、そのシャープなデザインに惹かれたという方が多くいようです。上述していますが、陸屋根はサイコロのようなキューブ型の住宅を実現することができる唯一の屋根形状で、直線的でどこかモダンな印象を与える家を建てられる点は大きなメリットです。
近年では、非常に似通った形状の家がズラッと並んでいる…なんて景色を見かけることが多いのですが、陸屋根であれば、シンプルながらも他の住宅とは一味違う雰囲気の家を建てることができます。
屋根面を屋上スペースとして活用できる
二つ目のメリットは、陸屋根であれば、他の屋根形状と異なり、屋根面を生活スペースとして有効利用できるという点です。一般的な屋根は、雨水を適切に排水するなどの目的で、一定の傾斜がつけられています。そのため、屋根の上のスペースは、太陽光パネルを設置するといった使い方はできるものの、そこに住む人が屋上として利用することはできません。
しかし、陸屋根の場合、屋根面がフラットな形状をしていますので、小さなお子様やペットを遊ばせるための小さな庭として利用したり、洗濯物を干すための家事スペースとして利用できるなど、生活スペースとして有効的に利用することができるようになるのです。都市部の新築住宅の場合、土地価格の問題などもあり、狭小地に三階建て住宅を建築する場合が多くなっているのですが、この場合、自宅に庭スペースを確保することは難しいです。しかし、陸屋根を採用すれば、そういった条件でも、屋上を簡易の庭として利用することが可能になるのです。
注意が必要なのは、屋上を生活スペースとして利用する場合、屋上防水を「歩行仕様」しなければならない、塔屋(階段室)が必要など、家の建築コストは高くなります。
※屋上利用する場合は、建築基準法の「高さ制限(建てられる建物の高さ上限)」に注意しましょう。
居住空間を広くできる
陸屋根を採用した住宅は、勾配のある屋根形状を採用した住宅に比べ、室内空間の体積が大きくなるというメリットが得られます。これは、陸屋根を採用した場合、屋根裏がなくなるため、その分天井を高くすることができるからです。
天井が低くくなると、どうしても圧迫感を感じる窮屈な印象を受ける空間となりがちですが、陸屋根の場合は、高さ制限めいいっぱいまで室内に充てることができるため、開放的な居住空間を実現することが可能です。
屋根のメンテナンスが容易
陸屋根は、住み始めてからの屋根メンテナンスが容易になるという点も非常に大きなメリットになります。どのような形状の屋根を採用していた場合でも、定期的な屋根の点検とメンテナンスを欠かすことはできません。しかし、傾斜のある屋根を採用していた場合、そこに住む人が、自分で屋根の上にあがり、劣化状態のチェックをしたり雨樋の掃除をしたりすることは、とても危険なのでできません。屋根の点検・メンテナンスに関しては、定期的に専門業者に依頼して行うというのが一般的です。
ただ、陸屋根の場合であれば、メンテナンスは難しいものの、屋根の劣化状況なら住人が自ら確認することも可能です。屋上利用が可能な陸屋根の場合、安全に屋根の上で活動することができますので、防水塗装の劣化症状が出ていないか、自分で確認することが可能です。もちろん、塗装のやり替えなどになると、専門業者に依頼しなければならないですが、実際のメンテナンス時も陸屋根の方が有利に働くのです。
というのも、足元がフラットな陸屋根の場合、メンテナンスを行う業者も危険は少ないです。そのため、屋根表面の塗装のやり替えなど、メンテナンスに寄っては足場の組立てが不要で、その分、メンテナンスコストを抑えることができるようになるのです。屋根のメンテナンス時に足場が不要になるというのは、他の形状にはない陸屋根だけのメリットと言えます。
なお、陸屋根の場合でも、屋上利用はできないようになっているという場合、住人自らが屋根の上にあがり、点検するのは難しいです。
陸屋根のデメリットとは?
陸屋根は、上記のようなメリットがある一方、注意しなければならないデメリット面も存在します。陸屋根は、屋上利用することができるため生活のためのスペースが増える、スタイリッシュな外観を実現できるなど、他の屋根形状にはない非常に大きなメリットが存在します。しかし、陸屋根には、決して見落とすことができないデメリット面もあるため、これから家を建てようと考えている方は、以下の点も考慮して陸屋根を採用するかどうかを検討しましょう。
雨漏りリスクが比較的に高い
陸屋根の大きなデメリットとして指摘されるのは、他の傾斜のある屋根形状と比較すると、どうしても雨漏りリスクが高くなってしまうという点があげられます。
陸屋根を採用した場合、屋根に落ちた雨水が、他の形状の屋根よりも長く残ってしまいます。陸屋根は、屋上利用できるように、フラットな形状をしています。もちろん、雨水を素早く排水できるよう、排水口を設けて、そこに向けて傾斜がつけられてはいます。しかし、他の形状の屋根と比較すると、その角度は緩くなってしまうため、どうしても雨水が残りやすくなり、雨漏りリスクが高くなるのです。
特に、日常的な掃除を怠ると、排水口周りにゴミが溜まるなどと言った理由で、適切な排水ができなくなり、長時間雨水が残ってしまう…なんてことになりやすいです。そして、その水が屋根面に施された防水層を突破し、雨漏りに発展する…なんてリスクがあるので、専門業者による点検以外にも、住人自らによるお掃除などのメンテナンスは怠らないようにしましょう。
夏場は、最上階が暑くなりやすい
建物の構造や材質、断熱処理の方法などによって異なりますが、陸屋根は、屋根と天井の間に空間がないという造りになっていることから、屋根の輻射熱による影響が大きくなりやすい点に注意が必要です。夏場は、強い日差しにより屋根表面が熱せられ、その熱が室内にまで伝わり、室温を上昇させてしまうのです。屋根裏がある屋根形状の場合、空間が存在することで熱の影響を少なくすることができるのですが、陸屋根の場合、ダイレクトに熱が伝わってしまうため、最上階が暑くなってしまいやすいのです。
したがって、夏場の暑さ対策を検討した時には、断熱処理をしっかりとする他、屋根面を緑地化したり、ウッドデッキなどを設置して直射日光が当たらないようにするなどの対策が必要です。
屋根裏スペースを活用できない
屋根裏を納戸やロフトとして活用したいと考える方も多いですが、陸屋根を採用すると、こういった使い方ができない点がデメリットに指摘される場合もあります。上でも紹介していますが、陸屋根はそもそも、屋根裏空間がない構造となるわけですので、そのスペースの活用法を考えても意味がありません。陸屋根は、屋根裏がないことで、勾配屋根の住宅よりも天井高を高くできるというメリットが得られていますので、致命的なデメリットとまでは考えなくても良いかと思います。
なお、吹き抜けの一部を利用して、ロフト空間やステップフロアを作ることは可能だと思いますので、どうしてもそういったスペースが欲しい方は、設計時に相談してみるのも良いでしょう。
陸屋根のメンテナンスについて
どのような形状の屋根であっても、定期的なメンテナンスを欠かすことはできません。例えば、スレート屋根の場合、10年前後に1度の頻度で塗装メンテナンスが必要と言われていますよね。
ただ、陸屋根の場合、表面に屋根材を施工するわけではないため、「傾斜のある屋根と違って、放っておいても良いのでは?」と考えてしまう方がいます。この考えは大きな間違いで、陸屋根の場合、屋根面からの雨漏りを防ぐため、表面に防水工事が施されていて、防水性を維持するためのメンテナンスが欠かせないのです。
なお、陸屋根の防水手法は、主に以下の3つの方法があり、採用している手法によって必要なメンテナンスが変わります。
- 塗膜防水
- シート防水
- アスファルト防水
以下でそれぞれの防水工事について、もう少し詳しく解説します。
塗膜防水
塗膜防水は、住宅のベランダなどの防水としても良く採用される方法です。液状の防水材料を塗布することで、防水性をもつ膜が作られ、屋根表面に防水性を持たせるという方法です。塗膜防水は、外壁塗装などと同じ要領で、施工箇所に塗料を塗るだけで防水工事が完了します。そのため、他の方法よりも手軽で、複雑な形状をした場所でも施工できる点がメリットです。また、下で紹介するシート防水などと異なり、防水層は「液状の塗料を塗る」ことで作られるため、継ぎ目のない防水層を実現でき、雨漏りの不安を軽減することが可能です。
なお、木造住宅の陸屋根で採用される塗膜防水は、主に以下の2つのどちらかが採用されます。
- ウレタン防水
ウレタン防水は、ウレタン樹脂を用いて防水層を作る方法です。ウレタン樹脂は、弾性があり、乾燥しても柔らかな塗膜が追従するため、ひび割れなどが生じにくいのが特徴です。ただ、乾燥に時間がかかるため、メンテナンス工事にかかる日数が長くなる点はデメリットです。 - FRP防水
FRP防水は、ガラス繊維強化プラスチックを用いて防水層を作る方法です。高い耐候性や耐熱性を持っているため、屋根の防水工事には非常に適しています。また、乾燥にかかる時間が短いので、工期が短縮できます。FRP防水は、高い耐久性を誇ることから、プールや屋上駐車場などにも採用されることがあります。
塗膜防水の耐用年数は、採用する塗料によって変わりますが、基本的に10年ほどとされています。なお、塗膜防水を採用している場合のメンテナンス費用については、採用する塗料の種類によって変わりますが、1㎡当たり4,000~8,000円程度が相場です。
シート防水
次はシート防水と呼ばれる方法です。シート防水は、耐用年数がおよそ15年程度と、塗膜防水よりも長い点が特徴です。
防水性を持つシート状の材料を地面に貼り付けることで防水層を作る方法です。塗膜防水とは異なり、シート状の材料を貼り付ける必要があるため、複雑な形状をした場所や地面がでこぼこしているような場所での施工には不向きです。
シート防水は、いっきにシートを貼り付けていくことができるため工期が短く、大規模施設の屋上などの施工には適しています。なお、施工方法は、「接着工法」と「機械的固定工法」の二つがあります。注意点としては経年劣化でシートが浮いてしまうことがある、継ぎ目が生じるため、劣化を放置すると雨漏りの原因になるなどがあります。
シート防水は、主に以下の二つの素材が使用されています。
- 塩化ビニールシート防水
紫外線や熱に強い塩化ビニールシートを用いて防水層を作る方法です。耐摩耗性に優れた素材なので、歩行頻度が高いと予想されるベランダなどに採用されることが多いです。屋上を、洗濯物を干す場所に利用する場合には、オススメかもしれません。 - ゴムシート防水
シート状の合成ゴムを用いて防水層を作る方法です。高い耐久力を誇るうえ、伸縮性があるため、下地に追従しやすい点がメリットとされています。ただ、紫外線・鳥害・衝撃で劣化などの弱点がある、接着剤の耐久性が弱まると防水性能が一気に低下するなどに注意が必要です。
シート防水を採用している場合のメンテナンス費用については、採用するシートの種類によって変わりますが、1㎡当たり3,000~7,000円程度が相場です。
アスファルト防水
屋上の防水工事の方法の中で、最も防水性に優れた手法がアスファルト防水です。アスファルト防水は、溶解アスファルトを用いてアスファルトシートを貼り重ね、防水層を作る方法です。
アスファルト防水は、耐用年数がおよそ15~20年ほどと、高い耐久性を誇る防水層を作れるのですが、工事の方法が大掛かりとなってしまうため、戸建ての屋上では主流とまでは言えず、ビルやマンションなど、広い面積を持つ建物で採用されることが多いです。
なお、アスファルト防水は、熱工法、常温粘着工法、トーチ工法などいくつかの施工方法がありますが、どれも高い技術力を必要とするため、施工にかかる費用が高くなります。アスファルト防水のメンテナンスについては、1㎡当たり4,500~9,000円程度が相場です。
まとめ
今回は、住宅の屋根形状の中でも、年々その人気が高くなっている陸屋根について解説しました。
陸屋根は、その他の屋根形状とは異なり、フラットな形状の屋根を実現できるため、屋根の上をちょっとした庭や家事スペースとして利用するなど、屋上利用ができるようになるのが大きなメリットです。ただ、勾配のある屋根と比較すると、雨水が長く残ってしまうことになるため、雨漏りリスクはどうしても高くなってしまう点に注意が必要です。
現在、新築戸建ての購入を検討している方で、陸屋根の採用を検討している方は、メリット面だけでなく、デメリット面のこともしっかりと考慮したうえで比較検討をするようにしましょう。