
住宅の中でも、一般の方がいまいち用途が分からないと感じる存在が「納戸」です。納戸は、基本的には収納スペースとして作られることが多い間取りなのですが、「家が手狭に感じてきた…」というようなケースでは、納戸の使い方を見直すことが推奨されているのです。
そもそも「納戸」という間取りは、その文字からも分かるように「収納を目的とした部屋」のことを指しているのですが、近年では、間取り図の中で納戸と表現するのではなくサービスルームやフリースペースと表記されることが増えているように、収納スペース以外の用途で利用したいと考える人が増えているのです。
そこでこの記事では、いまいち用途が分からないと感じる方が多い納戸について、その基礎知識や有効な使い方などについて解説します。
納戸とは?
それではまず、「そもそも納戸とは?」という疑問に回答していきたいと思います。
納戸は、建築基準法上の居室の条件を満たせていない部屋のことを指しています。分かりやすく言うと、採光や換気に関する条件を満たすことができない部屋のことです。日本国内で建物を建築する際には、建築基準法が定めている規定にしたがって建てなければいけません。そして、建築基準法では、居室の条件として、外の光を取り入れるための採光に関する基準と空気の入れ替えを行う換気に関する基準が以下の通り設けられています。
- 採光上有効な部分の面積が当該居室の床面積の七分の一以上である窓その他の開口部を有すること。
- 居室には換気のための窓その他の開口部を設け、その換気に有効な部分の面積は、その居室の床面積に対して、二十分の一以上としなければならない。
つまり、部屋(居室)とみなすためには、床面積に対して1/7以上の窓を設ける必要があるのです。
しかし、家を建てる際には、外壁に面していない間取りがどうしても生じてしまうケースなどが考えられます。これらの、基準よりも小さな窓しか設けられない、もしくは全く窓が設けられていないスペースに関しては、たとえある程度の広さを確保できていたとしても、居室に認めてもらうことができないわけです。
なお、一般的な納戸は、2~3畳程度の狭いスペースとされているのですが、中に6畳前後の広さを持つ納戸も存在します。ある程度の広さが確保できている納戸に関しては、収納だけでなく。暮らしの幅を広げるためのスペースとして活用することができるわけです。
参照:国土交通省webサイト
参照:e-Gov|建築基準法
納戸とサービスルームの違いは?
注文住宅を建てる際の間取り図や賃貸住宅の間取り図を確認していると、「納戸(N)」という表記のほかに「サービスルーム(S)」や「フリールーム(F)」と言った表記がなされている場所を見かけることがあると思います。間取り上、書き方が異なるということは「用途が違うスペースなのかな?」と考えてしまいますが、実は法的な意味において、納戸とサービスルームは実質的な違いはありません。
納戸もサービスルームも、建築基準法で定められた採光条件などを満たせず、居室に認められないスペースのことを指しているのです。この二つの呼び方の違いについては、あくまでも和風の表現方法か、洋風の表現方法かの違いしかないと考えていただいて構いません。
ちなみに、納戸は、以下のようにさまざまな表記方法があります。
- サービスルーム
- スペアルーム
- 多目的スペース
- ユーティリティスペース
- フリールーム
- マルチルーム
- ストレージルーム
上記のほか「書斎」と表記されることもあるようです。
なお、納戸の一般的な用途は「収納のためのスペース」と聞くと、クローゼットも納戸を意味していると考えてしまいます。しかし、納戸とクローゼットに関しては、そのスペースの利用目的などによって呼び分けられています。クローゼットは、衣類や日用品を収納するための専用スペースとして設けられている場合に使われる表記です。
納戸は、収納スペース以外にも、書斎や趣味部屋、家事部屋など、多目的に利用できる空間を意味していて、クローゼットは衣服などの収納場所として設けられた専用スペースと考えてください。ちなみに、クローゼットに関しても、図面上で「CL(クローゼット)」「WIC(ウォークインクローゼット)」「WTC(ウォークスルークローゼット)」と異なる表記がなされている場合があります。これは、クローゼットとしての使い方の違いを表しています。
納戸で出来ないこと
ここまでの説明で、納戸がどのようなスペースなのかはある程度分かっていただけたと思います。ただ、上の解説だけを見ると、居室と認められないものの、収納以外にも多目的に使えるスペースになるのだがら特に気にする必要はないと感じた方が多いかもしれません。
しかし、納戸は、「居室ではない」スペースとなるため、居室と同じような使い方ができない点は注意が必要です。
具体的には、納戸やサービスルームは、居室のような長時間の使用が想定されていないため、テレビや電話回線、エアコンといった空調設備を設置することができないのです。本来、居室にあるはずの設備が設けられない場合があるため、ある程度の広さが確保できていたとしても、設備の面で快適に過ごせなくなる可能性があります。例えば、設計段階で、納戸に居室につけるような設備を設けている場合、行政指導を受けることもあります。
納戸の場合、エアコンを設置するための管が壁に埋め込まれていない、テレビを見るための専用コンセントや端子が設けられていないスペースとなります。とはいえ、納戸の中に人が長時間滞在することが違法になるというわけではありません。例えば、他の部屋からコンセントを引き込んだり、温度・湿度管理のための家電製品を設置することで、快適性を確保することも可能なので、多様な使い方ができるのは確かです。しかし、建築時点から居室と同じような使い方がしたいと考えている場合、設計段階で納戸ではなく居室にしてもらう方が良いと思います。
納戸のメリットとデメリット
それでは、納戸を設ける場合、どのようなメリットとデメリットが存在するのかについて解説します。
納戸のメリット
これから家を建てようと考えている方は、納戸の良い部分と悪い部分をきちんと理解しておく必要があります。ここではまず、納戸の良い面からご紹介します。
固定資産税が抑えられる
家を購入する方にとってのメリットとしては、固定資産税が安くなるという点があげられます。毎年1月1日時点で家や土地を所有している人は、固定資産税が課されるのですが、建物の固定資産税額は、面積や築年数で決定されるのが基本です。そして納戸は、居室に含まれないため、固定資産税の算出時に対象とならないのです。
つまり、同じ面積の家の場合、納戸の有無によって、固定資産税額が変わり、ある場合の方が安くなります。ちなみに、賃貸住宅の場合、納戸があれば「居住スペースが狭くなる」という理由で家賃がおさえられている傾向にあります。また、建売の場合は、納戸がある住宅の方が販売価格がおさえられています。
収納スペースを確保できる
納戸は、住まいの収納力を補うという点では、非常に心強いスペースとなります。収納力は、納戸の面積によって変わりますが、最低でも3畳程度の収納部屋が増えると考えると、便利な収納場所になるのではないでしょうか?
特に、キッチンやリビングの近くに納戸がある場合、生活動線や家事動線上も利便性の高い収納スペースになります。例えば、日用品のストックや食品の備蓄庫として利用することができるため、このスペースを上手に利用することができれば、生活にかかるコストを削減することも可能になるでしょう。
また、生活動線上から離れた場所に納戸がある場合、普段使いしないオフシーズンの衣類や布団、掃除道具、趣味用品などを片付けておく場所として利用できるため、家の中をスッキリと見せることができるようになります。
なお、納戸を収納スペースとして利用する場合、日差しの影響を受けることなく物品の保管が可能になる点もメリットと言えるでしょう。先ほど紹介したように、納戸は「採光条件を満たせていない」スペースのことを指しています。逆に言うと、部屋の中に日差しが入って来ないことを意味するため、家具や衣服など、紫外線による変色や劣化を避けたい物品の収納場所として最適な条件となります。
多様な利用用途がある
納戸は、居室と認められないため、普通の部屋と同じように使用することが難しいです。先ほど紹介したように、テレビやエアコンの設置が難しいとなると、使い勝手が悪いと感じる人も多いはずです。
しかし、ある程度の広さを確保していれば、さまざまな用途に活用できるのは間違いありません。例えば、机と照明を設置すれば、書斎やテレワーク部屋として利用することができますし、洗濯物を畳むなど、家事に集中するためのスペースとして利用する方も多いです。この他、紫外線の影響を受けにくいということから、大切なコレクションを保管するための場所として活用されることも多いです。
納戸は、アイデア次第で自由に使い方を選べるという柔軟性があるため、居室に認められなくても十分に役に立つスペースになると思います。
納戸のデメリット
次は、納戸の悪い面についてです。
エアコンやテレビが使えない
広い納戸を確保できた家の場合、寝室や子供部屋として活用できないか…と考える人もいます。しかし、先ほど紹介した通り、納戸はエアコンやテレビが設置できないため、そのままの状態では夏は暑く冬は寒いという、快適性が得られない場所となってしまいます。
特に、昨今の日本の夏は、年々猛暑化が進んでいると言われていますし、エアコンなどの空調設備がない部屋に長時間滞在した場合、熱中症の恐れが生じてしまいます。
換気が不十分で湿気が溜まりやすい
納戸は窓がないか、または小さな窓しか設けられていないスペースを指しています。そのため、一般的な居室と比較すると、換気が非常にしにくいという弱点があるのです。
換気不足に陥ると、室内に湿気がこもり、カビや結露の発生を招いてしまう恐れがあります。特に、梅雨時期や夏場など、湿気が高くなりやすい時期は、納戸で保管していたものがカビで全てダメになるなどといった事態も起きやすいので注意しましょう。
換気のため、除湿機やサーキュレーターを利用しようと思っても、コンセントが無く換気対策が難しくなるという点も大きな注意点です。
日差しが入らないため、部屋が暗い
納戸は、採光条件を満たしていないため、居室と認められないのです。つまり、納戸には、ほとんど日差しが入らないので、部屋全体が暗くなりがちです。昼間でも、自然光が入らないため、明るさを確保するには照明を利用しなければいけません。
したがって、納戸を活用する際には、用途に合わせて適切な照明設備を整えてあげる必要があります。単なる収納スペースとして利用する場合なら、懐中電灯で十分かもしれませんが、書斎や趣味部屋、家事部屋として利用するためには、作業しやすい明るさが確保できるよう、照明の設計が必要になります。
納戸の活用方法について
それでは最後に、納戸の活用方法についてもいくつかの例をご紹介します。納戸は、建築基準法上、居室の条件を満たせていないだけのスペースで、なにも収納スペースとしてしか使ってはいけないというわけではないのです。
ここでは、納戸の代表的な活用方法をご紹介します。
家事室として利用する
納戸の活用方法として人気なのは、家事室として利用するという方法です。
机やイス、コンパクトな収納棚などを設置すれば、家事に集中するためのスペースとして活用できます。家事は、皆さんが考えている以上にデスクワークが多いです。例えば、お子様の学校の書類書きや、家計簿付け、小さなお子様がいるなら保育園のお便りなど、家族が集まる場所では集中して作業することが難しいことでも、納戸を家事部屋とすることで解決できるのです。
また、アイロン棚やミシンなどを用意しておけば、裁縫や洗濯物の片付けなども効率的にできるようになります。
在宅ワークやリモート学習のスペースとして利用する
最近は、働き方が多様化していて、出社せずに自宅で仕事をするというスタイルも当たり前になっています。また、フリーランスとして働く人も増えていて、自宅に仕事用のスペースが必要になる人は意外に多いのです。
このような場合、納戸があれば仕事に集中して取り組むためのスペースとして活用することができるようになるでしょう。同居する家族の生活音なども気にせず、リモート会議などがあっても家族の姿が写り込んでしまう…などといったことも無くなるため、家族もストレスなく家の中で過ごすことができるようになるでしょう。
この他、コロナ禍以降は、リモート型の塾なども増えているため、お子様が勉強に集中するための学習スペースとして利用することも可能でしょう。
なお、納戸を仕事や学習のためのスペースとして活用する場合、パソコンなどを利用できるようにコンセントは用意しておいた方が良いです。また、照明も明るめなものを設置しましょう。
収納スペースとして利用する
納戸は、そのまま収納スペースとして活用するというのもおすすめです。納戸を収納スペースとして利用すれば、ゆとりのある収納場所となるため、居住空間がすっきりと片付くというメリットが得られます。3畳程度の広さを確保すれば、季節用品や衣服、布団に家電など、かさばる物をスッキリと収納することができます。
なお、納戸を収納スペースとして活用する場合、どのようなものを収納できるようにしたいのかあらかじめ考えておき、それに合わせて棚などを作ってもらうと、より便利に使えるようになるでしょう。
まとめ
今回は、家の間取りの中でも、いまいちその用途が分からないと感じる方が多い「納戸」の基礎知識について解説しました。
記事内でご紹介したように、納戸は、建築基準法で定められた居室の条件を満たせていない部屋のことを指していて、一般的には収納スペースとして活用することが考えられた部屋となります。ただ、狭小地に家を建てることが多くなった昨今では、この納戸の活用方法が多様化していて、新築時に納戸の用途をしっかりと考えておいた方が良いという意見が多くなっているのです。
例えば、収納部屋にする場合でも、どのような物品を保管する想定なのかをあらかじめ考えておき、必要な棚などを用意しておく方が収納力を高めることができるはずです。また、家事部屋などとして利用したいと考える場合、洗濯物を畳む、アイロンがけをするなどの家事が楽にできるよう、大きなテーブルを用意してもらいたいものですよね。
納戸は、「用途がいまいち分からない」という方が多いため、住んでから必要に応じて改良すれば良いと考える人も多いのですが、その場合、余計なコストがかかってしまうことになるかもしれません。また、新築時であれば実現できたことでも、リフォームでは実行できない…などというケースもあるので、出来るだけ「何に活用したいのか?」は家を建築する際に検討してみるのがおすすめです。