新築一戸建ての購入時には、いわゆる「不動産登記」と呼ばれる手続きが必要です。不動産の“登記”とは、購入した土地や建物が「誰のものなのか?」をはっきりさせるために行う手続きのことを指しているのですが、実はマイホームの登記に関しては、建物を取り壊した時に必要になる「建物滅失登記」というものもあるのです。

新築購入時に不動産登記が必要だということは多くの方が理解していますが、建物の解体時に滅失登記と呼ばれる手続きが必要ということは「知らなかった…」という方の方が多いかもしれませんね。当然、法律で定められた手続きであることから、これを怠ってしまうと何らかのデメリットが生じてしまうことは予想可能だと思います。

それでは、建物滅失登記と呼ばれる手続きに関して、専門家に依頼した場合はどれぐらいの費用がかかるものなのでしょうか?また、滅失登記は自分で進めることはできないものなのでしょうか?この記事では、意外に知らない方が多い不動産業界の重要な手続きである建物滅失登記について、これがどのような手続きで、滅失登記を行う場合に用意しなければならない必要書類について解説します。

建物滅失登記とは?しなかった場合に何らかの罰則はある?

建物滅失登記と聞いても、「そもそも滅失登記って何?」「絶対にしないといけないの?」とその存在自体を知らないという方も多いと思います。

そこでまず、建物滅失登記の基礎知識と、必要なのにこの手続きを行わなかった時の弊害について解説します。

建物滅失登記とは?

建物滅失登記は、解体などにより登記簿に登記されている建物が滅失した事実を登記簿に反映させるための手続きのことを指しています。「滅失」とは、「物理的になくなる」ことを意味しており、この手続きは不動産登記法57条によって、「必ず滅失登記を行うように」と定められています。

なお、建物滅失登記が必要になる具体的なタイミングについては、以下のような時となります。

  • 建物を解体した時
  • 建物が火災で焼失した時
  • 建物が自然災害で滅失した時

上記のように、不動産登記されている建物が何らかの理由で滅失した場合に必要な手続きとなります。分かりやすく言うと、自然災害などにより建物が倒壊する以外では、意図的に建物を取り壊しした時に「滅失した」とみなされ、滅失登記が必要になります。ちなみに、昨今問題となっている放置空き家などについて、建物の劣化により人がとても住めないほど崩れそうになっていても、「滅失した」とはみなされず、滅失登記はできないのが一般的です。昨今の建物は、建築技術の向上もあり、構造のみを生かして家を再建することが可能です。しかし、取り壊していない建物について滅失登記をしてしまうと、再建する場合に滅失登記の回復が必要で、手続きは複雑になります。

このような建物滅失登記については、通常、土地家屋調査士などの専門家に手続きを依頼することになります。ただ、詳しく後述しますが、必要書類を集めることができれば、自分で手続きを進めることも可能です。手間はかかりますが、費用をかけたくないという方は、自分で手続きを進めるのも良いかもしれません。

建物滅失登記のポイント

建物の滅失登記を行う上では、以下の3つのポイントをおさえておきましょう。

建物解体後、1カ月以内に手続きが必要

建物滅失登記の申請は、期限が設けられています。意図的に建物を解体した場合、家の解体後「1カ月以内」が申請期限となります。

1カ月の申請期限は、皆さんが考えているほど時間的な余裕はありません。滅失登記は必要書類が多いですし、自分で申請を行おうと考えても、書類を集めるのに手間取ると期限までに手続きが完了しない可能性も高いです。したがって、「どんな書類が必要か全くわからない…」「手続き手順がさっぱり…」なんて方は土地家屋調査士などの専門家に依頼するのがおすすめです。なお、家の解体を行ってくれる解体業者は、手続きの手順なども熟知している会社が多いですし、何をすれば良いかさっぱりわからない…という方は相談してみても良いとと思います。

法務局で申請を行う

建物滅失登記の申請は「法務局」で行います。なお、解体を実施する土地を管轄する法務局で申請しなければいけません。

建物滅失登記申請書は、インターネットからダウンロードすることができますので、申請書以外の必要書類を集め、直接法務局まで持参するか、郵送で申請すると良いでしょう。なお、書類に不備があった場合、法務局まで出向いて修正しなければならないので、二度手間にならないよう、提出時に必要書類が揃っているのか確認してもらうためにも、最初に法務局まで持参するのがおすすめです。

相続した建物は相続人の1人が手続きを行う

遺産相続した建物に関しては、相続人が複数人存在する場合もあります。この場合、相続人全員が建物滅失登記の申請をしなければならないと考えがちですがそうではありません。滅失登記は、相続人の内、誰か一人が申請をすれば大丈夫です。
なお、建物滅失登記を専門業者に依頼する場合、それなりの費用がかかりますので、申請にかかる費用については、相続人全員で折半するのが良いでしょう。誰か一人だけが費用負担する形になると、後々のトラブルに発展する恐れがあります。

建物滅失登記をしなかった場合、どうなる?

ここまでの解説で、建物滅失登記がどのような時に必要なのかがわかっていただけたと思います。それでは、滅失登記が必要な場面なのに、申請をしなかった場合、何らかの問題が発生するのでしょうか?

ここでは、建物滅失登記が必要な場面なのに、その手続きを怠った場合に考えられる弊害についてご紹介します。

罰金が課せられる

上述したように、滅失登記は不動産登記法57条によって、「必ず滅失登記を行うように」と定められています。つまり、この手続きは「義務」という扱いなので、怠った場合には罰則が用意されています。

建物滅失登記は、家の解体から1カ月以内が申請期限とご紹介しましたが、この期間内に申請ができなかった場合には、10万円以下の罰金が課されるという罰則が用意されています。

第百六十四条
第三十六条、第三十七条第一項若しくは第二項、第四十二条、第四十七条第一項(第四十九条第二項において準用する場合を含む。)、第四十九条第一項、第三項若しくは第四項、第五十一条第一項から第四項まで、第五十七条、第五十八条第六項若しくは第七項、第七十六条の二第一項若しくは第二項又は第七十六条の三第四項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。
引用:e-Gov|不動産登記法

上記のように、滅失登記を怠った時には、罰則が適用されます。なお、「正当な理由がないのにその申請を怠ったとき」とあるように、何らかの理由で期限内に申請ができない場合、法務局へ相談しましょう。

固定資産税がかかり続ける

二つ目の弊害は、「固定資産税がかかり続ける」というコスト的なデメリットが考えられます。家を解体したとしても、建物滅失登記を行わなかった場合、登記簿上は建物は存在したままとなります。

固定資産税は、毎年1月1日時点の『登記簿上の所有者』に対して課せられる税金ですので、登記簿に残っている限りは固定資産税がかかり続ける可能性があるのです。ちなみに、固定資産については、年に1回、状況に変化がないか調査が行われるとされています。その際、登記簿上はあるはずの建物がなくなっていた時には、担当部署から状況確認の連絡が入るケースがあり、必要な手続きを怠っていたと発覚し、上記の罰則が適用される可能性があります。

土地の売却が難しくなる

解体して現存しない建物が登記簿上に残っている…という場合、土地を売りたくても買い手がつきにくいという問題が発生します。土地の売買を行う時には、登記簿を必ず確認しますし、必要な手続きが進められていないことはすぐにばれてしまいます。そのような土地を購入すれば、購入者が建物滅失登記などの手間のかかる手続きを行わなければならないため、そのようないわくつきの土地を買いたいと思う人は少ないのです。

新しい建物を登記できない可能性がある

建物滅失登記を怠っていた場合、その土地に新たな建物を建てた時、必要な手続きが進められない…という問題が発生する可能性があります。

更地を購入し、家を建てた時には表題登記をするのですが、滅失登記の手続きが進められていない場合、建物滅失登記が終わるまで新しい建物を登記できない可能性があるのです。このような場合、通常とは異なる手続き手順となるため、土地家屋調査士などの専門家に相談するしかないでしょう。

建物滅失登記の必要書類について

それでは次に、建物滅失登記の手続きを進めるために必要になる書類についてご紹介していきます。滅失登記は、必要書類を集めることが手間になるだけで、そこまで難しい手続きではありません。したがって、滅失登記の必要書類をきちんと押さえておけば、自分で手続きを進めることはそこまで難しくはありません。

滅失登記の手続きが自分でできるかどうか不安…という方は、以下の必要書類を集めることができるかどうかで検討すると良いかもしれません。

全てのケースで必要になる書類

建物滅失登記では、以下のような書類を集めなければいけません。

  • 建物滅失登記申請書
  • 解体した建物の関係書類
  • 建物滅失証明書
  • 解体事業者の代表者事項証明書と印鑑証明書

それぞれの必要書類の詳細を以下でもう少し詳しく解説します。

建物滅失登記申請書

これは、建物滅失登記を申請するための書類で、法務局の「不動産登記申請表示係」に行けば用意することが可能です。プリントアウトが可能な環境であれば、法務局のホームページから、書き方の見本も一緒にダウンロードすることも可能です。

> 建物滅失登記申請書のダウンロード
> 建物滅失登記申請書(見本)のダウンロード

解体した建物の関係書類

滅失登記では、解体した建物の概要がわかる書類が必要になります。法務局(窓口・郵送・オンライン)で、以下の書類を集めてください。

  • 登記簿謄本(登記事項証明書)
  • 建物図面(各階平面図)
  • 公図

上記の書類の内、建物平面図に関しては、登記に際して提出が義務化されたのが1965年です。これ以前に建てられた家の場合、図面が存在しないことがあるのですが、その場合はなくても手続きを進められます。

ちなみに、登記事項証明書に記載されている所有者の住所と現住所が異なる場合、住所を変更したことが分かる証明書(住民票の写しや戸籍の附票など)が必要になり、名前が異なる場合は、登記簿謄本や除籍法本など、登記記録上の名前と現在の名前のつながりを証明する書類が必要です。

建物滅失証明書

建物滅失証明書は、その名称から分かるように、存在した建物が解体・撤去により滅失したことを示す書類で、解体業者が用意してくれます。特に決まった様式などは定められておらず、解体業者が独自の建物滅失証明書の書式を作って、解体作業完了後に無料で発行してくれるのが一般的です。ちなみに、法務局のwebサイトでダウンロードできる「建物滅失登記申請書(見本)」の2ページ目に建物滅失証明書の例も記載してくれていますので、自分で作成したものを解体業者に渡し、印鑑を押してもらう形でも良いです。
建物滅失証明書内には、解体した建物の所在地、家屋番号、滅失の理由、建物所有者、解体業者の企業情報などが記載され、解体業者の実印が押されているのが一般的です。

※建物滅失証明書は、滅失した建物が存在したところの地図や滅失したことが分かる写真も併せて用意してくれると思います。なければ、この二つも自分で用意しておきましょう。グーグルマップをプリントし、建物があった場所に〇をつけるだけで構いません。

解体事業者の代表者事項証明書と印鑑証明書

建物滅失登記の手続きでは、建物の解体を依頼した事業者の代表者事項証明書と印鑑証明書が必要です。自分で滅失登記の手続きを進める場合、この書類の発行を解体業者に依頼しましょう。

状況によっては必要になる書類

建物滅失登記は、状況によって上で紹介した書類以外にもいくつかの書類が必要になります。

住民票や戸籍謄本など

上でも触れていますが、登記事項証明書に記載されている所有者の住所と現住所が異なる場合、住所が変更したことが分かる証明書(住民票の写しや戸籍の附票など)が必要になり、名前が異なる場合は、登記簿謄本や除籍法本など、登記記録上の名前と現在の名前のつながりを証明する書類が必要です。

相続関係を示す書類

相続人が滅失登記を行う場合、亡くなった建物の所有者と相続関係にあることがわかる書類を用意しなければいけません。上述したように、複数の相続人がいる場合でも、誰か一人の相続人が手続きを進めることが可能です。したがって、亡くなった方(建物の所有者)の戸籍謄本・除籍謄本と、滅失登記の手続きを行う相続人の戸籍謄本を用意しましょう。

委任状

これは滅失登記を土地家屋調査士など、第三者に依頼する場合に必要になる書類です。委任状自体は、申請を代行する土地家屋調査士が用意してくれるはずです。

建物滅失登記の流れ

建物滅失登記は、専門家である土地家屋調査士に依頼して申請を代行してもらうケースが多いです。ただ、専門家に手続き代行を依頼する場合、決して安くない費用がかかってしまいますので、「可能なら自分で手続きを進めたい」と考える人も多いはずです。

建物滅失登記という手続きは、さまざまな書類を用意しなければならないものの、手続き自体はそこまで複雑ではありません。したがって、多少の手間や時間がかかったとしても費用を安く抑えたいと考えるなら、自分で手続きを進めるのも悪く無い選択だと思います。

ここでは、一般的な建物滅失登記の手続きの流れを分かりやすくご紹介しますので、自分で可能かどうか検討してみてはいかがでしょう。

STEP1 滅失登記の必要書類を集める

ご自身で建物滅失登記を進める場合、上で紹介した必要書類を集めてください。建物滅失登記申請書は、法務局に足を運ばなくてもwebサイトからダウンロードすることが可能です。上で紹介した見本を参考に、必要事項を記載していきましょう。間違った内容を記載すると、修正のために法務局に足を運ばなければならなくなるので、登記簿謄本に記載されている内容を、間違いなく記載するようにしましょう。

STEP2 法務局に書類を提出する

STEP1で必要書類をそろえたら、法務局にそれを提出しましょう。上述したように、申請は1カ月以内に行わなければならないなど、期限が設けられているので、なるべく早く書類集めに動く必要があります。

必要書類の提出に関しては、「滅失した家を管轄している法務局」ですので間違わないようにしましょう。建物滅失登記申請書など、書類の入手に関してはどの法務局でも可能なのですが、提出は「滅失した建物を管轄する法務局」に限られるのです。なお、相続した建物など、法務局が遠方にあるという場合は、郵送で提出することも可能です。

滅失登記について、郵送の方が楽と感じるかもしれませんが、書類に不備があった場合、修正のために法務局に足を運ばなければならなくなる可能性があります。法務局には、登記相談窓口が設置されているので、作成した書類に不備がないか事前に確認してもらうことが可能です。一度、法務局まで足を運ぶ必要があるものの、書類不備の可能性が減り、スムーズに手続きが進むことから、こういった手続きになれていない方は持参して確認してもらったうえで提出するのがおすすめです。

※滅失登記の手続きは、専用ソフトを利用することでオンラインで進めることも可能です。ただ、事前準備に手間がかかるため、一般の方がオンライン申請の体制を構築するのは現実的ではありません。

STEP3 登記完了証を受け取る

法務局側の手続きが完了したら、登記完了証を受け取ることになります。建物滅失登記の必要書類提出時に、返信用の封筒と切手を用意して渡しておけば、完了した登記完了証を郵送で送ってもらうことが可能です。登記完了証の受け取りまでにかかる期間については、それぞれの申請内容によって変わりますので、一概に「〇日で完了する」とは言えないのが実情です。

建物滅失登記に必要な費用

それでは最後に、建物滅失登記の手続きを進めるためにかかる費用についてご紹介します。滅失登記にかかる費用については、ご自身で手続きを進めるのか、土地家屋調査士に手続きを代行してもらうのかによって大きく異なります。以下に、それぞれのパターンについて、大まかな費用相場をご紹介しておきますので、「自分でやるべきか?」と迷っている方は参考にしてみてください。

  • 自分で建物滅失登記を行う場合の費用
    滅失登記を自分で行う場合、必要書類を用意するための費用がかかるぐらいで、専門家に依頼するのと比較すればほとんど費用は掛からないと言えるでしょう。登記事項証明書や住民票、登記簿謄本を取得するための費用として1,000~2,000円程度の費用がかかります。この他には、法務局までの交通費や返信用の切手代などがかかる程度なので、よほど遠方の法務局まで足を運ばなければならないケース以外は、3,000円程度を想定しておけば、おつりが出るぐらいだと思います。ただ、自分で手続きを進める場合、お金はかかりませんが手間や時間はかかってしまいます。
  • 土地家屋調査士に滅失登記を代行してもらう場合の費用
    必要書類を集めるために自分で動く時間がとれない…、そもそも必要書類を聞いても何が何だか分からない…という方の場合、土地家屋調査士に滅失登記を代行してもらうことが可能です。この場合、報酬として4~5万円程度が費用相場と言われています。

このように、建物滅失登記は、自分で手続きを行う場合と土地家屋調査士に依頼する場合では、かかる費用が大きく異なるのです。筆者個人的には、そこまで難しい手続きではありませんし、法務局に足を運べば、不備がないか法務局のスタッフがきちんと確認してくれるという手厚さがあるため、書類を集める時間がある方の場合、自分で手続きを進めるのが良いのではないかと考えています。
滅失登記は、あまり見慣れない手続きではあるものの、手続き自体は非常に単純で難しくありません。

まとめ

今回は、家の解体を行った際に必要になる建物滅失登記の基礎知識について解説しました。不動産に関わる登記手続きについては、手に入れた時に必要になるものというイメージで、家を解体した際にも必要になるということを初めて知った…という方も多いかもしれませんね。記事内でご紹介しているように、意図的に家の解体を行った場合、解体から1カ月以内に滅失登記と呼ばれる手続きが必要で、これを行わなかった場合には、10万円以下の罰金が課せられるといった罰則まで用意されているのです。

ただ、建物滅失登記に関しては、必要書類を集めるために手間と時間がかかるものの、手続き自体はそこまで難しくありません。土地家屋調査士に依頼した場合、5万円前後の費用がかかってしまう可能性があるため、この記事を見て「自分でもできそう!」と感じた人はご自身で手続きを進めてみるのも良いと思います。

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