
近年では、相続税対策などを目的に不動産投資を始める方が増えていると言われています。「なぜ不動産投資が相続税対策になるのか?」については、また別の機会に詳しく解説したいと思いますが、上手に活用することができれば相続税の負担を軽減する効果が期待できるとされているため、興味を持っている方も多いはずです。
なお、不動産投資については、基本的に融資を受けて行うのですが、その時に利用する融資は「不動産投資ローン」と呼ばれるタイプの商品となります。不動産投資は、建物を建てて、それをうまく活用するという方法なので、住宅ローンを使っても良いのではないかと考えてしまう人がいるのですが、住宅ローンはマイホームを購入するための商品なので、不動産投資には基本的に利用することはできません。
しかし、不動産投資に興味を持つ方が増えている昨今では、住宅ローンを不正利用することで投資物件の購入を進める悪質な不動産営業が増加していると言われており、実際に、営業マンの巧みなトークで住宅ローンを使った不動産投資を始め、とんでもない事態に陥ってしまうというケースが目立つようになっているとされているのです。
そこでこの記事では、不動産投資になぜ住宅ローンが利用できないのか、また住宅ローンを不正に利用した不動産投資に手を染めた場合、どうなってしまうのかについて解説したいと思います。
住宅ローンを使った不動産投資は禁止行為に該当する
昨今では、不動産投資セミナーなども盛んに開催されていますし、不動産投資に係わる飛び込み営業なども普通に行われています。そして、中には住宅ローンを使った投資を持ちかけられるケースも普通にあると言われていて、話を聞いたときに「本当にバレないのならやってみてもいいのかな…」と思ってしまう人も少なくないようです。
住宅ローンを使った不動産投資について結論から言ってしまいますが、これは明確に禁止行為に該当するので、不動産会社の営業マンなどに勧められたとしても、絶対に手を出さないようにしましょう。
住宅ローンを利用した投資に関しては、どの金融機関でも禁止事項としており、過去に大きな事件にまで発展したこともあるため、現在ではかなり厳しくチェックされるようになっています。そのため、「バレないなら」と考えて住宅ローンを利用した不動産投資を始めても、そのほとんどのケースがバレてしまっているとされています。住宅ローンを利用した投資がバレてしまった時には、金融機関側からかなり厳しい処罰が課されてしまうため、住宅ローンを使った投資に手を出すのは絶対にやめましょう。
住宅ローンで不動産投資を行ってはいけない理由
住宅ローンを利用した不動産投資は禁止行為に該当すると聞いても、「どうせ返すのだから何がいけないの?」と思ってしまった人もいるかもしれません。融資する金融機関は、お金が帰ってくるのだから別に良いのではないかという考え方ですね。
しかし、住宅ローンで不動産投資ができない一番の理由は、そもそも住宅ローンの利用目的は「自己が居住する住宅の購入や増改築」とされているからなのです。不動産投資とは、ローンを組んで手に入れた物件について、自分で住むわけではなく、第三者に貸し出すことを予定しています。つまり、先ほど紹介した住宅ローンの利用目的から、完全に逸脱した行為となるわけです。
住宅ローンは、購入した家に住むということを前提に、その他のローン商品と比較して、かなり低金利に設定されています。これは、住宅ローンは、真面目に働いて返済を続ければ、完済できるようにということが考えられているためで、マイホームという性質上、無理な返済をさせないように設定されていて、長期的に低金利で融資が受けられることになっているのです。日本は、国もマイホームを持つことを推奨しており、物件によっては住宅補助が出たり税制優遇があったりと返済の負担を軽くするという動きがあります。これらの制度は、あくまでも「自分が住む」ということが前提となっているため、第三者に貸し出すことで利益を出すような使い方は禁止されているのです。
住宅ローンを投資に利用してはいけない理由については、住宅ローンと不動産投資ローンの違いを見ればよくわかると思うので、次項でその辺りをもう少し詳しくご紹介します。
住宅ローンと不動産投資ローンの違いとは?
住宅ローンと不動産投資ローンは、さまざまな面に違いがあります。この二つのローンの違いをおさえておけば、「なぜ投資に使ってはいけないのか?」また「なぜ住宅ローンを不正に利用しようとするのか?」が良く分かると思うので、以下で代表的な違いについて解説します。
利用目的が違う
住宅ローンと不動産投資ローンの最も大きな違いといえるのが「ローンの利用目的」です。この2つのローンは、以下のように利用の目的が定められています。
- 住宅ローン・・・自らが住む住宅の購入や増改築に利用できる
- 不動産投資ローン・・・賃貸利用を目的とした物件の購入に利用できる
住宅ローンで購入した物件については、転勤など、やむを得ない事情がある場合を除き、第三者に賃貸することはできません。ちなみに、不動産投資ローンで購入した物件についても、金融機関から許可を得ない状態で、自分で住むという行為は契約違反にあたります。
この2つのローンは、「住宅ローンは自分が住むため、不動産投資ローンは他人に貸すため」という点をしっかりと押さえておきましょう。
金利が違う
二つ目の違いは、金利です。住宅ローンを不正に利用した投資が行われているのは、この金利の違いが大きな要因です。住宅ローンと不動産投資ローンの金利は、以下のようになっています。
- 住宅ローンの金利相場・・・0.3~2.0%
- 不動産投資ローンの金利相場・・・1.0~4.0%
ローンを組むの条件(収入や保有資産など)が同じ場合、金利は住宅ローンの方が圧倒的に安くなります。そして、どちらも長期的な契約となるため、金利差があると最終的な返済額に大きな格差が生じてしまいます。例えば、上で紹介した最も安い金利で、3000万円の物件を35年ローンで手に入れた場合、なんと不動産投資ローンの方が最終的な支払額は400万円ほど高くなってしまうのです。
「住宅ローンで不動産投資をするのはお得」とされるのは、この金利差による支払総額の違いがあるからですね。中長期的な視点で見ると、数百万円単位の違いが生じるわけなので「不正利用でも住宅ローンを利用したい!」と考えてしまう人が出てしまうのでしょう。
融資基準(審査基準)
住宅ローンと不動産投資ローンは、不動産を手に入れるための融資であるという点は同じですが、審査基準が大きく異なります。審査基準は、金融機関によって異なる場合もあるのですが、代表的な基準は以下のようになっています。
- 住宅ローンの融資(審査)基準
申込者の収入、申込者の職業・雇用状況など - 不動産投資ローンの融資(審査)基準
申込者の収入、申込者の職業・雇用状況、物件の収益性、物件の市場価値、申込者の投資経験、申込者の資産保有状況
上記のように、不動産投資ローンの場合、申込者自身のチェックだけでなく、投資物件の収益性なども考慮されるのです。不動産投資ローンは、住宅ローンよりもかなり審査が厳しく、住宅ローンは通るけど不動産投資ローンは通らない…というケースは少なくありません。これも、住宅ローンを投資に利用しようとする要因の一つでしょう。
返済年数の上限
住宅ローンと不動産投資ローンは、返済年数の上限の決め方も違いがあります。住宅ローンについては、基本的に申込者の年齢によって上限が決められます。これは、申し込み時点での年齢ではなく、完済時のタイミングで「何歳になっているのか?」という点を基準に、返済年数が決定されるのです。つまり、申込時の年齢が高い人は、短期間で完済しなければならないローンを組むことになります。
一方、不動産投資ローンの場合は、申込者ではなく、投資対象となる不動産の法定耐用年数で上限が決められるのが一般的です。法定耐用年数は、建物の寿命を表すのではなく固定資産の「資産価値が帳簿上から消滅するまでの期間」を定めた年数となります。建物の場合、構造別に以下のように年数が定められています。
- 木造の法定耐用年数:22年
- 鉄骨造(S造)の法定耐用年数:34年
- 鉄筋コンクリート造(RC造)の法定耐用年数:47年
不動産投資ローンの返済年数は、築年数が経過している物件の場合、法定耐用年数から築年数を引いた年数で設定されると考えておきましょう。例えば、築15年が経過したRC造のマンションの購入で不動産投資ローンを組む場合、返済年数上限は「47年-15年=32年」となります。
ただ、多くの金融機関は、住宅ローン、不動産投資ローンともに、最長の返済年数は35年としているので、その点は注意しましょう。返済年数については、申込者の資産なども関係してくるので、実際に何年でローンを組めるかは、事前に金融機関に確認しておきましょう。
住宅ローンを使った不動産投資はバレるのか?
住宅ローンと不動産投資ローンの違いが分かれば、住宅ローンを不正に利用した不動産投資に手を出してしまうのは理解できなくもないですね。言い方は悪いですが、住宅ローンを利用した不動産投資は、バレなければかなりお得になるのです。そのため、悪質な不動産投資セミナーなどでは、不動産投資に住宅ローンなどを利用しても問題ないといった言い方で解説したりするのです。
しかし、この記事のタイトルで指摘しているように、住宅ローンを利用した不動産投資は、ほぼ100%の割合で金融機関にバレてしまうので、絶対に手を出さないようにしましょう。金融機関側も、住宅ローンの金利の安さや審査基準の緩さなどは理解しているため、不正利用があった時にはきちんと発覚するようなシステムをとっています。
ここでは、住宅ローンを利用した不動産投資がバレてしまう代表的な理由を紹介します。
理由① 郵便物が届かないから
先程紹介したように、住宅ローンは自分が住むための家を購入するための融資です。そのため、購入後は、住民票を購入した家に移さなければいけません。一方、不動産投資の場合、第三者に貸し出すことで利益を出すわけなので、購入した物件には第三者が入居者として住んでいるはずです。
住宅ローンを組んでいる場合、金融機関からさまざまな郵便物が送られてくることがあります。この時、郵便のあて先は「ローン対象の物件の住所」になるため、自分が住んでいない物件の場合、郵便物を受け取ることができなくなりますよね。金融機関側は、本来、ローンを組んでいる人が住んでいるはずの物件から郵便物が差し戻されてくるわけなので、架空契約などを疑い、調査などを始めます。金融機関に本格的な調査をされてしまうと、そこに別の人が住んでいることなどすぐにばれてしまいますよね。
「郵便物が原因なら、転送設定しておけば良いのでは?」と考える人もいますが、転送期間は届け出から1年間と決まっているため、住宅ローン期間中は1年ごとに転送手続きをしなければいけません。この場合、何十年にもわたって転送の更新を行うことになるため、郵便局側が不審に思い、金融機関に通報されることで調査に入られる可能性が考えられます。さらに、住宅ローンを組んでいる銀行からは、転送不要の書留郵便なども発送されるため、転送届を出していたとしても、結局バレてしまいます。
理由② 金融機関の担当者訪問があるから
住宅ローンを組んだ場合、セールスやサービスの案内を目的に、金融機関の担当者が急に訪問してくるというケースも珍しくありません。特に、地方銀行や信用金庫など地域密着型で融資をしている金融機関の場合、購入した物件に訪問する可能性が非常に高いとされています。
金融機関の訪問に関しては、事前のアポイントなしに行われるケースも多いため、訪問時にローン契約者がその物件に住んでいないということがバレてしまうのです。
これの対策のため、事前に「訪問しないでください!」とお願いすると、余計に不信感を与えてしまうため、抜き打ちの訪問確率は逆に高くなってしまうでしょう。
理由③ 不動産事業者の全件調査があるから
昨今では、住宅ローンを使った不動産投資を防ぐため、不動産業者や金融機関が抜き打ちで調査することが多くなっています。この際、不正利用が疑われる事例が存在した時には、その金融機関におけるすべての住宅ローン契約について詳細な調査を行う全件調査が行われることがあるのです。
この調査では、契約者や居住の実態がくまなくチェックされてしまうため、ほぼ100%の確率で不正利用がバレてしまうと言われています。全件調査は、ある日突然行われるものなので、事前の対策なども施しようがなく、住宅ローンの不正利用がバレてしまいます。
理由④ 確定申告の内容が怪しまれ、税務調査が入る
不動産投資を始めると、家賃収入を得ることになるため、確定申告をしなくてはいけません。住宅ローンで家を購入する場合、住宅ローン控除という制度を活用すると、節税になるので、不動産投資をしているのに住宅ローン控除も申請するという方も少なくありません。
しかし、確定申告で家賃収入が増えた年に、住宅ローン控除を受け始めているとなると、その内容が怪しまれ税務調査の対象となってしまうのです。この場合、抜き打ちで税務署の調査官やってきて、申告内容をチェックすることになり、所得の内訳やローンの状況が洗い出されることで、不正利用がバレてしまうのです。
住宅ローンの不正利用がバレたらどうなる?
住宅ローンの不正利用がバレた時には、その時点で不動産投資ローンに切り替えたら良い…なんて簡単に考えていてはいけません。住宅ローンを利用した投資がバレた時には、住宅ローンの規約違反が判明したという意味なので、それ以上住宅ローンを利用することができなくなり、残債の一括返済を求められることになってしまうのです。
残債の一括返済は、非常に大きなダメージになってしまいます。ただ、住宅ローンの不正利用は、それだけにとどまらず、ケースによっては犯罪になってしまう可能性もあるのです。ここでは、住宅ローンの不正利用が発覚した時に生じる問題についてもご紹介しておきます。
一括返済を求められる
先程からご紹介しているように、住宅ローンを利用した不動産投資は規約違反です。そのため、これが何らかの理由で発覚した時には、それ以降の住宅ローンの利用が認められなくなるため、残債の一括返済を求めらると考えておきましょう。
住宅ローンの規約違反は、「期限の利益の喪失事由」になるため、分割であった債務の履行について一括で債務者に請求できるようになるからなのです。期限の利益とは、債務者が「契約で定められた期限に返済すれば良い」というメリットのことで、この利益が喪失するということは、「今すぐに全額を支払わなければならない」という意味になるのです。
契約者が、規約や契約通りにしっかりと返済している場合、最初に取り決めた内容に沿って返済し続ければ良いのですが、規約違反を犯した時には、その決まりが無効になってしまう訳です。住宅ローンは、あくまでも契約者が自分で住むための家を購入する場合に限り、低金利での融資を行っている商品です。それを、使用目的外の投資に利用した場合、規約違反となり、金融機関側は一括返済を求めることができるようになるわけです。
社内ブラックに登録される
住宅ローンを使った不動産投資がバレてしまった時には、貸し付けを行っていた金融機関については、社内ブラックに登録されてしまいます。
社内ブラックとは、それぞれの金融機関が社内で共有するブラックリストのことで、金銭的に信用できない行動をとった時や規約違反などの迷惑行為を行った際に登録されると言われています。
この社内ブラックリストは、当該金融機関に限りますが、貸し付けを行ってもらえなくなる、その金融機関のサービスが利用できなくなるなどのデメリットが生じます。
犯罪になり警察に捕まる
住宅ローンの不正利用について、計画的な犯行だと判断されたときには、詐欺罪として告訴される可能性があります。住宅ローンを不動産投資に利用するということは、「自分が住むために購入する」という嘘を金融機関に対して伝えているという意味です。この場合、金融機関を欺いて不正な利益を得るということに該当するため、詐欺罪が成立する可能性が十分にあるのです。
なお、不動産会社や不動産投資セミナーなどで、住宅ローンを使った不動産投資を提案されたというケースでも、最終的に銀行に嘘をつくのは契約者となり、責任は契約者が問われてしまうのです。
住宅ローンが例外的に投資に利用できるケース
ここまでの解説で、住宅ローンを利用した不動産投資は絶対にNGであることが理解していただけたと思います。基本的には、不動産投資に住宅ローンを利用することはできないと考えておけば間違いありません。
ただ、例外的に住宅ローンを投資に利用できる場合があるので、以下のケースも覚えておきましょう。
賃貸と居住、どちらとも利用する物件の場合
一つ目の例外は、賃貸と居住の両方を兼ねる「賃貸併用住宅」を建てるためのローンは、住宅ローンを利用することが可能です。
注意点としては、賃貸併用住宅として認められるためには、自宅として利用する面積が「50%以上」ある場合に限られています。例えば、2階建ての建物を建設して、2階部分を自宅として利用しながら、1階部分を賃貸として利用するというケースが考えられるでしょう。
なお、賃貸併用住宅でも、「自宅として使っている割合」に限られるものの、住宅ローン控除を活用することができます。ただ、借主との距離が近くなる分、クレームや要望が来やすい、将来的に売却を考えた時には、買い手が付きにくいといったデメリットがあるので、その辺りは注意しましょう。
やむを得ない事情がある場合
住宅ローンを利用して購入した物件について、最初は自分で住むつもりで購入したけれど、急な転勤が決まって空き家にせざるを得ない…なんて場合、特例としてその物件を賃貸に転用することが認められることがあります。
もちろん、「やむを得ない事情」に関しては、物件所有者がかってに判断するのではなく、融資を受けている金融機関に相談し、許可をもらう必要があります。例えば、「急な転勤で、5年後には戻ってくることになっているため、一時的に賃貸物件として運用したい!」など、金融機関側が「やむを得ない」と判断する理由がきちんとあれば許可してもらうことができるでしょう。
注意が必要なのは、やむを得ない事情があったとしても、無許可で賃貸に出した場合、不正利用を指摘され、残債の一括返済が求められる可能性がある点です。賃貸に出して良いかどうかは、融資している金融機関側が決めることなので、必ず相談したうえで対応するようにしましょう。
まとめ
今回は、マイホームの購入時に利用する住宅ローンの不正利用について解説しました。
記事内でご紹介したように、本来は、自分で住むための家を購入する際、低金利で融資してもらうことができるという商品が住宅ローンなのですが、これを不動産投資に利用することでより多くの利益が出せるようになると勧める悪質な業者が増えているとされています。不動産投資にも、不動産投資ローンという長期的な契約を組める商品があるのですが、金利は住宅ローンの方が圧倒的に安くなるため、金融機関を欺くような行為を行う方がいるのだと思います。住宅ローンの不正利用については、不動産業業界の売上高ランキングでTOP5に入っているような企業が、顧客に勧めていたという報道が2023年にもありました。
しかし、住宅ローンを利用した不動産投資については、現在ではほぼ確実にバレてしまうと言われているため、絶対に手を出さないようにしましょう。大手有名企業の営業マンが「絶対にバレない!」といってきても、その情報に騙されないようにすることが大切です。