皆さんは、空家等対策特別措置法という法律はご存知でしょうか?日本では、年々増加し続けている空き家の存在が社会問題となっており、この空き家問題を解消するために制定されたのが空き家法と呼ばれる法律です。

「空き家の増加が社会問題になっている」と言われても、多くの人がマイホームの取得に憧れていると言われているのだし、そこまで大きな問題ではないのでは…と考える方もいるかもしれません。しかし、平成30年に総務省が行った調査によると、全国でなんと約849万戸もの家屋が空き家状態になっているとされ、さらに空き家の数は20年間で約1.5倍にまで増加していることが明らかになったのです。空き家が問題視されているのは、空き家が存在することで、周辺地域に防災・防犯、衛生、景観などの部分で、多くの悪影響を与えるからです。

そして、日本全国に存在する空き家に対する適切な対応を定めた法律が「空家等対策の推進に関する特別措置法」と呼ばれる法律なのです。空家等対策特別措置法は、2015年5月に全面施行された比較的新しい法律なのですが、さらなる空き家対策に取り組む目的で、2023年6月にその一部を改正する法律が公布され、同年12月に施行となっています。空き家問題は、多くの方に関わる可能性が高いので、この記事では空き家法の改正で何が変わるのかを分かりやすく解説します。

参考:総務省「住宅・土地統計調査」

空家等対策特別措置法の概要について

それではまず、空家等対策特別措置法がどのような法律なのか解説していきます。この法律は、全国に存在する空き家について、適切な管理や処理方法を定めることが目的の法律です。

正式名称は、「空家等対策の推進に関する特別措置法」なのですが、単に空き家法と呼ばれたり、空家等対策特別措置法と呼ばれるケースが多いです。この法律が制定されるまでは、長年誰も住んでいないことが確認されている空き家だとしても、所有者の許可が無ければ行政機関などでも立ち入り調査を行うことができませんでした。しかし、全国に存在する空き家が周辺地域にさまざまな悪影響を与えることから、空き家法を制定することにより、敷地への立ち入り調査や、空き家の所有者について住民票や戸籍などで個人情報を調べることが許可されることとなったのです。

そもそも空き家とは?

それでは、空家等対策特別措置法の対象となる「空き家」とはどのような家屋を指しているのでしょうか?空家等対策特別措置法では、以下のように定義しています。

この法律において「空家等」とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。第十四条第二項において同じ。)をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く
引用:e-Gov|空家等対策の推進に関する特別措置法

これからも分かるように、空き家とは、「人が住んでいない」、「状態的に使用されていない」家屋のことを指しています。なお、空家等対策特別措置法第五条では、空き家の所有者や管理者に対する責務についても定められており、以下のような条文が作られています。

(空家等の所有者等の責務)
第五条 空家等の所有者又は管理者(以下「所有者等」という。)は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する空家等に関する施策に協力するよう努めなければならない。
引用:e-Gov|空家等対策の推進に関する特別措置法

空家等対策特別措置法では、空き家の所有者に対して「適切な管理」を行うように定めています。これは、状態的に使用されていない空き家が、犯罪者の隠れ場所に利用されたり、動物などが住み着いて異臭問題が発生することで、周辺の生活環境に悪影響をおよぼす可能性があるためです。

特定空家とは?

空家等対策特別措置法第二条二項では、特定空家についても定義されています。あまり聞き馴染みがない言葉かもしれませんが、以下のいずれかに当てはまる家屋は、空家等対策特別措置法で「特定空家等」と定義されています。

  • そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
  • 著しく衛生上有害となるおそれのある状態
  • 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
  • その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

過去に親が住んでいた家屋を相続し空き家状態のまま放置している方も少なくない状況になっていますが、万一、所有する家屋が上記の条件に当てはまり「特定空家等」に指定された場合、行政の助言や指導に基づき、適切な対応を取らなければならないと定められています。

空家等対策特別措置法が改正された背景とは


画像引用:総務省資料より

日本で空家等対策特別措置法が制定されたのは、全国で空き家の数が増加の一途をたどり周辺の生活環境にさまざまな悪影響を与えるようになったことから、増え続ける空き家について適切な対応を求めるのが目的です。

ただ、上のグラフから分かるように、2015年に空家等対策特別措置法が制定されてからも、空き家の増加傾向は収まることはなく、状態的に人が住んでいない空き家は右肩上がりの増加傾向を続けています。従来の空き家法では、特定空家への対応を重点的に定めていたのですが、それでは手に負えない状況に陥ってしまっていると考えられます。

そこで、2023年6月に、空家等の活用拡大や管理の確保、特定空家等の除却などに総合的に取り組むことができるようにするため、空き家法の改正が行われることとなったのです。それでは、空家等対策特別措置法の改正で何がどう変わるのでしょうか?この記事を読んでいる方の中には、自分たちが居住しない空き家を所有している方も多いと思いますが、適切な管理が行えていない場合、大きなリスクを背負うことになりますので注意しましょう。次項では、空き家法改正のポイントをまとめます。

空家等対策特別措置法の改正ポイントについて

空家等対策特別措置法は、空き家問題を何とか良い方向に向かわせるため、2023年6月にその一部を改正する法律が公布され、同年12月に施行となっています。それでは、多くの方に関係すると考えられる改正空き家法は、どのような点が変わったのでしょうか?

主な改正ポイントを以下で解説します。

①空家等の活用拡大

空家等の活用拡大については、「空家等活用促進区域(法第7条、第 16 条~第 20 条)」「空家等管理活用支援法人(法第 23 条~第 28 条)」が主です。

空家等の活用拡大に取り組む理由は、地域の拠点となるエリアに空き家が増え続けてしまうことは、その地域の本来的な機能を低下させる恐れがあると考えられたからです。実際に、改正前の空き家法では、地方自治体が移住者向けに空き家の活用を行おうとしても、建築基準法などの規制がネックとなり、建て替えや修繕が上手く進められないという問題があったそうです。

そのため、今回の空き家法改正により、空家等活用促進区域内では、建築基準法の接道規制の合理化などを行うことができるとしています。具体例としては、以下のような対策が行われることになっています。

  • 接道規制の合理化(建築基準法)
    前面に接する道が幅員4m未満でも、安全確保策を前提に、建替え、改築等を特例認定
  • 用途規制の合理化(建築基準法)
    各用途地域で制限された用途でも、指針に定めた用途への変更を特例許可
  • 市街化調整区域内の空家の用途変更(都市計画法)
    用途変更許可の際、指針に沿った空家活用が進むよう知事が配慮

参照:国土交通省資料より

②管理の確保

次は管理の確保です。改正ポイントは「管理不全空家等に対する措置(法第 13 条)」「所有者把握の円滑化(法第 10 条第3項)」です。

空家等対策特別措置法の改正後は、これ以上の特定空家等の増加を防止する目的で、国や自治体が「管理不全空家等」を設定することができるようなりました。管理不全空家とは、放置すれば特定空家になるおそれのある空家を指しており、管理不全空家として勧告を受けた空き家の所有者・管理者については、市区町村長から指導・勧告が行われ、管理指針に即した措置を行わなければいけないと定められています。

空き家の所有者把握の円滑化については、市区町村から電力会社などに情報提供を要請することができるようになります。なお、この改正ポイントの注意点としては、勧告を受けた管理不全空家は、固定資産税の住宅用地特例(1/6等に減額)が解除される点です。この部分は、非常に重要なので、国土交通省の資料から引用文を以下に掲載しておきます。

市区町村長は、適切な管理がなされておらずそのまま放置すれば特定空家等になるおそれのある空家等(以下「管理不全空家等」という。)の所有者等に対して指導することができることとした。また、指導をした場合において、なお当該管理不全空家等の状態が改善されず、そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれが大きいと認めるときは、当該指導をした者に対し勧告することができることとした。勧告を受けた管理不全空家等の敷地は、特定空家等と同様に、地方税法(昭和 25 年法律第 226 号)第 349 条の3の2の規定に基づき、固定資産税等の住宅用地特例が適用されない。
引用:国土交通省資料より

③特定空家等の除却等

3つ目のポイントは、特定空家等の除却に関わるものです。この部分の改正では「特定空家等の状態の把握(法第9条第2項)」「行政代執行の円滑化」「財産管理制度(法第 14 条)」がポイントとなっています。

右肩上がりで増加する空き家問題については、今後空き家が増加するのを防ぐとともに、特定空家等の除却などについても、迅速に進めていかなければいけません。そのため、2023年12月に施行された改正空き家法では、特定空家等の除却等を円滑に進めるための変更も加えられています。

例えば、従来の空き家法では、特定空家等の除去のための代執行を行う場合には、緊急時であっても命令等の段階を経る必要がありました、しかし、改正後の空き家法では、命令等の手続きを経ずとも、代執行が可能となります。要は、自治体などによる行政執行が円滑に行われるようになるという意味です。

空き家対策として私たちができることとは?

それでは最後に、空き家対策として私たちができることについても簡単にご紹介します。今回の空き家法改正により、特定空家等に指定されていない家屋でも、放置すれば特定空家等になるおそれがあると判断されれば、管理不全空家として固定資産税の住宅用地特例が解除されることとなりました。固定資産税の住宅用地特例が受けられなくなった場合、毎年の固定資産税支払額が6倍になってしまいますので、非常に大きな負担となってしまうことでしょう。

現在の日本で、これほどまでに空き家が増加しているのは、相続などによって自分たち家族が居住しない家屋を取得するのが大きな要因です。少子高齢化が進む日本では、子供が親元を離れて都市部にマイホームを持つなんてことが当たり前になっており、親から受け継いだ実家がそのまま空き家になって放置されてしまう…なんてことが非常に多いのです。したがって、社会問題化している放置空き家については、相続した家屋などについて、早期に適切な対処ができるよう事前に対策を検討しておくことが大切です。

ここでは、相続などで自分が居住する予定のない言えwお取得した場合に、検討したい対策をご紹介します。

居住する予定がないなら売却する

家を相続する場合でも、自分は既に別の場所に家を建てているという方は多いと思います。このような方の中には、居住する予定はないものの「子供の頃の思い出があるし、残しておきたい…」と考えてしまう場合も少なくないと思います。しかし、誰も居住しない空き家を所有する場合、適切な管理を行わなければさまざまな問題に発展してしまう可能性があります。当然、家の状態を保つためには、定期的にメンテナンスをしなければいけませんし、それなりのコストがかかってしまうことでしょう。

したがって、空き家の増加が社会問題化している現在では、居住する予定のない家を相続した場合、早期に売却するというのが最も良い方法と考えられます。家を売却すれば、まとまった現金が手に入りますし、家の管理にかかるコストも不要になるわけですので、金銭的なメリットは大きいです。ちなみに、家を売却する方法は以下の2パターンがあります。

  • 古家付き土地として売却
    手間をかけずに家を売却したい場合は、取得した家をそのまま古家付き土地として売却するという方法です。家の状態がまだそこまで悪くなく、リフォームすることでそのまま使えそうであれば古家付き土地として売却すれば良いです。なお、築年数がある程度経過した戸建て住宅の売却の場合、ほぼ土地だけの価格で売却し、購入者が後からリフォームして使うケースがほとんどです。
  • 家を解体して更地として売却
    築年数が経過した戸建ての売却は、土地のみの状態にしてから売却する方が買い手が付きやすいです。これは、リフォームでは対応できないレベルに劣化した古い家の場合、購入後に解体してから家を建てなければならないからです。したがって、購入者の手間を省く意味でも、建物を解体し更地にしてから売却する方が高く売れる可能性が高くなるのです。家の状態が悪い場合は、先に解体して、解体費を販売価格に上乗せして売却すれば良いです。

リフォームして活用する

当然のことですが、相続した家は、必ず処分しなければならないわけではありません。例えば、すぐに相続した家に住むわけではないけれど、将来的には地元に帰りたいと考えている方も少なくないはずです。

そのような場合は、リフォームや建て替えをして活用するのがおすすめです。例えば、人が住めるレベルにリフォームすれば、賃貸物件として活用することも可能です。この場合、空き家にはなりませんし、賃借人が住むことになるわけですので、特定空家等になることもありません。

まとめ

今回は、2023年12月に改正法が施行された空家等対策の推進に関する特別措置法の変更ポイントを解説しました。日本国内には、多くの空き家が放置されており、犯罪者の隠れ家や小動物の住処などと使用され、周辺環境にさまざまな悪影響を与えることが社会問題になっています。

少子高齢化が進む日本では、今後さらに空き家の件数が増加していくのではないかと考えられていて、それを阻止する目的で2015年に空家対策特別措置法が制定されてのです。ただ、空家対策特別措置法が制定された後も、空き家の増加が続いたことから、空き家の管理や把握をより厳格にしようという動きになっています。

今回の法改正では、特定空家等に指定されていない状態の管理不全空家でも、固定資産税の特例撤廃など、所有者の負担が大きくなる変更が加えられています。自分が居住する予定のない家を相続で取得した場合には、その取扱いについて早期に対応がとれるよう、今からでも検討しておくのがおすすめです。

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